ファイトマッチ①


 そんなかんじで、俺と信号機トリオはクダラノにログインすることが日課になっていた。


碧子は部活があったり茜もバイトをしているので毎日という訳にはいかないが、個々に活動したり、まあ皆で集まれたら。という気楽なかんじだ。


高校生とはいえ、俺達だって色々と用もある。

いつだって暇な訳じゃない。



 「ちょっとお! 何日ぶりのお越しですかあ、ナンバーワン様?」


そう、俺はアマテラスとしての活動もしなければならないのだ。


「そんな近づくなよ」


久しぶり(と言っても2日ぶり)にログインすると、どうやって察知したのか光の速さでスィーティーの家に呼び出され、こうして詰め寄られていた。


「だって、アマテラスがこんなに来ないなんて3年前インフルエンザで倒れて以来じゃない?」

「去年(修学)旅行に行った時だって4日休んだだろ」


ウサギの口元を押し戻しながら話を逸らすが、目の前の赤い目は不満気に俺を睨んでいる。


「もしかして、例の捨てアカとか言ってたほうにうつつを抜かしてるなんてないだろうな?」


そこに、虹色のカーテンをかき分けながら そんな声が聞こえてきた。


「キラ」


相変わらず偉そうに腕を組む青色の髪が俺達の前に現れる。


「よ、酒持ってきたぜ」


その後ろから、いつも通り能天気なシュヴァートも一緒だった。


「お前ら何なんだよ」


思わず ぼやいてしまったが、ここはスィーティーの家。

彼女が呼んだのに違いない。


「ここのところのアマテラスの怪しい行動について、じっくり尋問させてもらわないとね」


ギラリと輝く包丁を持って微笑むスィーティー。


手元のケーキを切るためとは分かっているが、どうにも不安になる。


「そうだぜ、お前はこのクダラノの精神的支柱なんだから」


自分で担いできた樽からグラスにビールを注ぎつつ、シュヴァートまでそんなことを言う。


「それで、実際どうなんだよ。最近何かあったのか?」


俺達が座るテーブルにもたれかかるキラから、俺は目を逸らした。


「……別に」


クラスメイトの女子達とワイワイ遊んでました。


なんて言おうものなら、どんな嫌味を言われるか分かったもんじゃない。


それが目に見えているから、紅茶を飲み干しながら話をはぐらかす。


「お前なあ」

「皆、お待たせ」


苛つくキラに詰めらていると、玄関から聞き慣れた声が聞こえた。


「え」


驚いて立ち上がりかけた俺の目の前に、バスケットを抱えたインティが笑顔で登場したのだ。


「おー、全員揃ったね」


固まって動けない俺を無視し、コバルトブルー色のケーキを切り分けたスィーティーは手を振る。


その言い方からするに、この間の打ち上げと同じ5位までのランカーをここに集めたのだろう。


「このメンバーで集まること最近多くないか?」


普段なら、1年に数度顔を合わせるかどうかなのに。


「まあ、最近は6位以下の連中も怪しいからな」


呟く俺に答えたのは、スィーティーではなくキラだった。


「どういうことだ?」


真っ青なケーキから目を逸らしながら更に尋ねると


「ここのところ、高ランクにもイクリプスの息のかかった奴等が浸食してきてやがる」


返ってきたのは、またもやその名前。


「イクリプスって、あのギャングまがいのことをしてるっていう?」


俺達のいるテーブルに歩み寄ったインティが顔をしかめる。


人の噂話などに疎い彼女が知っているというのは、相当名前が知れ渡っている証拠だ。


「そう。“プレイヤー同士は助け合って楽しもう”っていう今のクダラノのスタンスが嫌いな連中のことだ」


2杯目のビールに口をつけながら、シュヴァートが珍しく真面目な面持ちで吐き捨てる。


「そんな。その精神をアマテラスが広めてくれたから、今のクダラノがあるのに」


バスケットをテーブルの上に置きながら言うインティの言葉は、俺にとって何より嬉しいものだった。


というか、バスケットの中に手作り風のケーキが入っているのが見える。


出来れば、そっちが食べたいのだが……。


「例の“優しき世界”ってやつね」


しかし そんな気持ちなど察してくれるはずもなく、スィーティーは俺の前にコバルトブルーのケーキを置く。


青いクリームの中に黒光りする楕円形の物体がうごめいているのは何だろう。


「あ、それは俺の言葉じゃないぞ」


さりげなくケーキの皿を横によけながら俺が告げると、何故か皆に一斉に振り向かれた。


「は?」

「そうなの?」

「お前のセリフだってプレイヤー全員が思ってるぞ」


そんなに反応されるとは思っていなかったから、逆に俺のほうが困惑してしまった。


「いや、俺の、母さんの言葉なんだ」


別に隠す必要もないから なるべく何気ないかんじで伝えたのだが、俺を見る目はやはり驚きに変わる。


その中で、インティだけがちょっと寂しそうにうつむいていた。

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