正しい遊び方④

もしかしたら、これが奴等の狙いだったのかもしれない。


俺達から勝負を挑んだ風にして、このシチュエーションに誘い込む。


「そこまで言うなら、喧嘩かってやるよ」

「PvPでな」


やっぱり、そうきた。


「PvP?」


急に余裕たっぷりといった態度になった小林達に、ミドリコが眉をひそめる。


「プレイヤー対プレイヤーの直接バトルのこと」


クダラノは本来はプレイヤー対モンスターのみを想定したゲームだが、いつしかプレイヤー同士で強さを競い合うようになったのが今のPvPの始まりだ。


その最たるものが競技トーナメントだが、こうして個人単位での対戦やエリアごとの小さい大会なんかも日常的に行われていたりする。


「ボコられても泣くなよな」


対戦という形にすれば、どれだけ一方的だろうと堂々と相手を痛めつけられる。


そんな卑怯な算段だったのだろう。


「初心者の女子相手に、そんなのやめろよ」


しかし、レベルが上のプレイヤーが下のプレイヤーへ喧嘩を吹っ掛けるのを良しとしないのもクダラノの暗黙のルールだ。


俺がミドリコの前に立つと、顔を見合わせた小林達は一斉に噴き出した。


「なあなあ、間瀬君。こないだの授業聞いてた?」

「習ったよな、男女平等。女が男と同じ権利主張するなら、こういうとこで手加減しちゃダメな訳じゃん?」


「はあ?」


こいつらが何を言っているのか、さっぱり理解不能だ。


「それとこれとは違うだろ」

「同じだろお? このクダラノだって男が作った場所なのに、後からただ乗りしてきた女達が当然な顔して居座ってやがる」

「女には何かを作る能力なんてないくせによ」


そんな知ったかぶった一言に、俺の頭の血管は静かに切れた気がした。


「……そこまで言うなら、俺が相手になってやるよ」


最大限怒りを押さえて呟いた俺の言葉に驚いたのは、3人ではなく背後のミドリコのほうだった。


「アタル?」


「な、なに恰好つけてんだよ!」

「普段モテないから、女の前で舞い上がっちゃってんじゃね?」


しかし今の俺は、せせら笑う小林達の下品な顔を見るだけで怒りが沸き上がってくる。


制止しようとするミドリコのほうは見ず、自ら岩場の開けた場所まで進み出た。


「おいおい、本当にやる気かよ」

「レベル0の分際で」


良い虐めのターゲットが出来たと思ったのだろう。


彼等の目は、楽しそうに嗜虐しぎゃくに輝く。


御託ごたくはいいから、さっさと来いよ」


「ああ?」


だが、そんな彼等の笑みは俺の一言で途端に怒りの表情へと変わる。


「あのさ、これって漫画とかアニメじゃねえんだよ」

「もしかして、自分が主人公で奇跡が起きてどうにかなるとか思ってんの?」


なるべく軽薄な笑いを張りつけているものの、その口元は歪んでいた。


俺のような超初心者に言い返されて動揺を隠しきれてないのが丸わかりだ。


「じゃあ、さっさと俺を殺してみろ」


そう言いながら、俺は木杖を目の前に掲げる。


「高3にもなって中二病かよ」

「世の中 自分の思い通りにはならないって、そろそろ思い知るんだな」


そのセリフと一緒に地面を蹴ったのは竹内だった。


「フユウ」


同時に俺も呪文を唱え、岩場の中に浮かび上がる。


「そんなショボい魔法で俺らとやり合う気かよ」


小林が高笑いするように、この杖が出せるのは簡単な重力を操る魔法だけ。


重力は土属性と空属性の融合だが、攻撃力が無い分ハズレ魔法とされている。


そんなことは、スカウターで奴等も確認済みだろう。


「もしかして、それで俺達がビビるとか期待しちゃった? 残念だなあっ!」


今度は木暮がロングソードを威嚇するように構えてみせた。


「フユウ」


その導線から逃れるように、もう一度同じ呪文を繰り返すと周囲にあった大小の岩が浮かび上がる。


「うおっ」


足元から上がってきた岩にふらつく3人だったが、さすがに彼等も飛行魔法を使い体勢を立て直した。


「なんだ、これで不意打ちしたつもりだったか?」


そして、ネタは暴いてやったとばかりに俺に笑みを顔を向ける。


「こんなんが切り札かよ」

「弱いって哀れだよなあ」


ジリジリと大岩へと追いつめられる俺をいたぶるように、地面に降りた3人はにじり寄って来た。


「アタル!」


こんな状況はどう見ても絶体絶命だろう。


俺はこの後こいつらに好きなだけ痛めつけられ、それに飽きたら呆気なく殺される。


誰がどう考えたって、そんな未来しかあり得ない。


「こいつで遊んだ後は、お前も覚悟しとけよ」


叫ぶミドリコに、小林が横目で下卑げびた笑みを向けた。


今だ。


「フユウ」


俺が再び呪文を唱えると、勢いよく3人組の体が地面から浮き上がった。


「うおっ」

「落ち着け、さっきのハッタリだ!」


一瞬狼狽うろたえたものの、さすがに一瞬でそれは見抜かれてしまう。


「へへ、無駄な抵抗だな」


案の定、小林が白い杖を俺に向け魔法を込める。


「これで終わりだ」


火属性のブレイズだろうか。


みるみる膨らんでゆく炎の風に俺の髪が揺れた。

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