正しい遊び方③
「分かった」
思い切りのいいミドリコは、決心したようだった。
それまで
「水鉄砲!」
左手に持った刀の鞘から刀身を抜き放ち、そう叫んだ。
次の瞬間、空中に飛散する輝く水飛沫。
俺の目の前で、ミドリコの初めての魔法が発動した。
「やった」
最初の数回は魔法が出せないプレイヤーも多い中で、これは素晴らしい。
頭から水を被ったマーモットは、一鳴き叫んだかと思うとピンク色の煙を残してその場から呆気なく消失していった。
「……え、やったの?」
あっという間の出来事に、自らが倒した実感がないのかミドリコ本人は茫然としている。
「ああ、見事な魔法だった」
多分マーモットのレベルは1か2くらいだったろう。
「この調子でモンスターを倒していけば、レベルもすぐに上がるぞ」
初めてのモンスター討伐成功に、何故か俺のほうがちょっと興奮してしまっていた。
「そっか、とりあえず良かった」
自分の手を見つめた後、笑ったミドリコの笑顔は輝いて見えた。
「ところで」
とりあえず その後、俺が走り疲れたので近くの岩に腰かけて少し休憩することにした。
その隣に座ったミドリコが、自分の刀を見つめながら言う。
「この刀が使える魔法は、あの2つだけなの?」
というのは、スカウターで確認した時に出てきた“水鉄砲”と“リーヴィニ”のことだろう。
「いや、武器のレベルが上がれば使える魔法の種類も増える」
「武器のレベル?」
聞き返すミドリコの手の中の青い刀を俺は
ポップアップしたウインドウには『水精の刀剣』という武器名と、やはりレベル11という表示。
「プレイヤーと同じように、使っていると武器もレベルが上がる。それによって潜在魔法が開放されたり、好きな魔法を自分で注入できるようになるんだ」
「そんなことが可能なんだ」
「新しい魔法を入れるには、専門の職人に依頼しないとダメだけどな」
アマテラスの時はスィーティーに気軽に頼んでいたが、アタルのアバターではそういうもいかない。
行きつけになる良い魔法職人を探しておく必要があるなと思った。
「あ、何か最初から色々言って悪い」
はっと気づいて、俺はミドリコに謝る。
抑えてはいたつもりだが、くどくどゲームの説明をされるほど白けることはないだろう。
つい調子に乗って次々話してしまった自分を反省したが
「ううん。クダラノって、色んなことが出来てワクワクするね」
大切そうに水精の刀剣を握りしめ、ミドリコは笑ってくれた。
「……それなら、良かった」
クダラノを好きになってくれるなら、俺にとってそれ以上に嬉しいことはないのだから。
だから、そんなやり取りに満足して青い空を見上げてなんかいたのに。
「あっれぇ、お前ら また来てたの?」
招かざる客というのは、どうしてそういう時に限ってやって来るのだろうか。
岩にもたれたまま視線を移せば、どこからか現れた小林、竹内、木暮のあの3人組がニヤニヤしながらこちらに近づいて来ていた。
「お前ら」
「なに、お前らデキてんの?」
いやらしい笑みを浮かべながら木暮が言う。
俺はともかく、普段のクラス内ならばミドリコには絶対こんな口はきけないくせに。
「ヒロカやアカネも一緒だけど?」
それを分かっているのか、ミドリコは冷たい口調で3人を睨みつける。
「もしかして、こないだのまぐれでモンスター倒したのが成功体験になっちゃった系?」
来なくていいのに、薄ら笑いを浮かべた3人は逃げ場のない俺達の前へと立ち塞がった。
「言っとくけど、あんなの誰でも出来るから」
「ていうか、あの時もかなり手際悪かったよな」
普段は使わない悪態を、よく次から次へと吐けるものだ。
クダラノに来ると人格が変わるのか、それともこれが彼等の本性なのか……。
「あんた達には関係ないでしょ。行こう、アタル」
嫌気がさしたように、ミドリコが刀を持って立ち上がる。
小林達の前を横切り、この場から離れようとしたが。
「おい、シカトしてんじゃねーよ」
その肩を、乱暴に竹内が掴んだ。
「離せよっ」
「ああ?」
……あ、やってしまった。
と思ったが、当然もう遅い。
「おいおいおい」
「それって、もしかして俺らに喧嘩うってんの?」
チンピラばりにガンをとばしてくる姿に、面倒なことになったと思った。
「いい加減にしてよ」
そして、こちらも負けじと応戦するミドリコ。
こうなると、
「俺らとやりあおうっての?」
「クダラノで喧嘩するって、どういうことか分かってんのかなあ」
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