正しい遊び方②

その言セリフを言うが早いか、こちらに背中を向けて捕まえた昆虫を食べていたモンスター(ピンク色のマーモットみたいなやつ)のうなじにミドリコは躊躇ちゅうちょなく斬りかかっていった。


その様は、初動の動きから力の入れ具合まで無駄がない。


さすが剣道の有段者。

このままクダラノを続けていけば、かなりの強プレイヤーになるだろう。


しかし。


「わっ!」


仕留めたと思ったはずのマーモットは、見た目に反してミドリコの斬撃を弾き飛ばしてきた。


「斬れない?」


反動でよろめいたミドリコが呟き、刀を構え直す。


マーモットはまるで気づいていないように両手で持った昆虫を食うことに夢中になっている。


「どうすればいいの?」


困ったようにこちらを振り向き尋ねる声に、俺はニヤリと笑った。


「それを探すのが、難しくもあり面白いところ。って本に書いてあったぞ」


ちょっと意地悪かとも思ったが、実際にこのクダラノでやっていくには自分の頭で考える習慣を身につけるしかない。


物分かりの良いミドリコは、ちょっと口を尖らせたものの小さく頷く。


「うなじが他の場所より硬かったのかな」


独り言を言い、今度はマーモットの前側に回って頭頂部を目掛けて刀を振り下ろす。


しかし、これもさっきと同じように硬質な音響と共に弾き返されてしまった。


「ギィヤィィ」


そして、二度も食事の邪魔をされたことに堪忍袋の緒が切れたらしい。


三角形の目をつり上げ、マーモットはミドリコに対して臨戦態勢をとったのだった。


「わわわっ!」


自分を目掛けて突撃してくるマーモットから逃げ出すミドリコ。


そんな光景を微笑ましく眺めていた俺だったが


「アタル、どいて!」


その追いかけっこは、何故か一直線に俺のいる方向へ向かってくる。


「なんでこっちに来るんだよ!」


忘れかけていたが、レベル0の俺達のHPは1。


弱いマーモットであろうと、一発攻撃を食らったらすぐにお陀仏だぶつとなってしまう。


「そんなこと言ったって!」


ここでミドリコを5日間も強制ログアウトにさせてしまったら、ヒロカとアカネにどんな嫌味を言われるか分かったものじゃない。


「じゃあ、倒すためのヒントだ」


ミドリコと並んで走りながら、俺は叫んだ。


マーモットの奴がそこそこ鈍足だったのがせめてもの救いだ。


「ヒント?」

「クダラノ世界の攻撃方法は主に二つ、物理攻撃と魔法攻撃だ」


本当は呪いとか即死効果とか自爆とか、色々あるが今はそこまで言っても仕方ない。


「つまり……、物理攻撃がダメなら魔法でしか倒せないってこと?」


ドタドタと逃げながらすぐに気がつくミドリコは、やはり勘が良い。


「でも、私達ってまだ魔法は使えないんでしょ?」


困った声を出されるように、確かにレベル0の俺達のMPは0である。


「けど、それでも魔法を使える方法が……」

「あ、ちょっと待って」


続けて説明してやろうとした俺の親切は、鋭い声にさえぎられた。


「アタル、この間レプティリアンと戦った時に魔法使ってたよね」

「あ、ああ」


まさに、それを言おうとしていたのだが……。


「つまり、自分の能力以外でも魔法は使用できるってこと?」


クダラノについて何も知らないのに、その理解の早さには脱帽する。


「そう。正確には、この杖が帯びている魔法を使わせてもらった」


言いながら掲げたのは、あの紫の石の杖。


「それじゃ、私の刀でも同じことが出来る?」

「その刀は恐らく水属性の魔法ステータスを持ってる」

「どうやったら分かるの?」

「スカウターで刀の情報を見てみるんだ」


岩場の周りをグルグルと逃げながら、俺達はそんな会話をする。


マーモットがいくら遅いとはいえ、俺はそろそろ息が切れてきた。


「あ、ほんとだ!」


刀の基本情報を確認したであろうミドリコが、走りながら感動したような声をあげた。


全然疲れてなさそうな様子は、さすが運動部といったところだ。


「使える魔法は、“水鉄砲”と“リーヴィニ”……だって」


ウインドウを読み上げた顔が続けて俺を見る。


「どっちもレベル5くらいの魔法だな。多分あのマーモットには十分だ」


見たところ、ミドリコが貰った刀のレベルは0くらい。


今の俺達には勿体ないくらいの代物だ。


「魔法って、どうやって使うの?」


これまた初歩の初歩を聞かれ、俺は悩んだ。


いつも感覚で行ってることを言葉で表すのは結構難しい。


右手をあげる方法を口で説明しろと言われても、何となく。としか言い様がないのと同じだ。


「使えると思って使うんだ。誰でも絶対出来ることだから、大丈夫!」


励ましのつもりの一言だったが、この言葉が将来的にクダラノ世界の核心をつくことになろうとは……。この時の俺はまだ知らない。

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