世界樹の下で②
「それもアマテラスが始めたものと言われているんだ。このクダラノがまだ無名だった頃からな」
「どういうこと?」
「要はプレイヤー同士の助け合いってことさ。上位者は初心者に親切にする、困ってる奴がいたら皆で助ける、普段はライバルでもいざという時は協力しあう」
口下手な俺のふわっとした考えがそんな風と伝えられているとは、光栄なことだった。
「なんかアマテラスって得体の知れない存在てかんじだったけど、結構まともな人なのね」
感心したように言うヒロカに、そうだそうだと声を大にして言いたかった。
「その義援金てのも、スィーティーは先着順にしようとしてたみたいなんだけどな。アマテラスが話し合いで分配すべきだって言ってくれたんだとよ」
「ここのオヤジなんて他人を優先しちまう性格だから、そうしてくれて良かったよ」
「一番被害が大きかったくせに、恰好つけやがってな」
口々に言われながら、当の武器屋のオヤジは憮然と弁当を食っている。
あの何度も頭を下げながら小瓶を受け取っていた彼の姿が思い出された。
確かに、そういう性分だったり言い出せない立場に置かれている人というのも多くいるだろう。
そう言ってもらえるなら、あの時の自分の判断は決して間違ってなかったのだと安心できた。
「それに、イクリプスの奴等のこともあるしな」
大工のじいさんがぽつりとこぼした一言に、最後に残ったポテトサラダを平らげようとしていた俺は箸を持つ手を止めた。
「イクリプス?」
当然それが何かを知らないミドリコが聞き返す。
「クダラノ内のギャンググループみたいな奴等さ。アマテラスが作ったそういう精神を慣れ合いだとか馬鹿にして、集団で弱い者いじめをしてる連中だ」
それはスィーティーも
「そんなのがいるの?」
「もし早い者勝ちになんてしてたら、あいつらが真っ先に掻っ攫うか、受取ったプレイヤーを脅して強奪してただろう」
「最近は無駄に数を増やしているしな」
まるで吐き捨てるような言葉を聞きながら、俺は唐揚げ弁当を完食した。
「よーし、それじゃ作業を開始するぞ」
皆も弁当を食べ終わり器を片づけ終えると、誰ともなく声を出しぞろぞろと立ち上がり始めた。
「うちもそっち手伝うよ」
アカネなどはすっかり懐いた大工のじいさんに楽しそうに駆け寄って行く。
「それじゃ、俺達は……」
また前回と同じようにゴミ集めでもやるか。
そう思い、ミドリコとヒロカへと近づいた時。
「この木材はどっちに」
どこかの梁にでも使うのか、長く重量のある木材を担いで歩いていた男が背後で突然方向転換した。
そして、運悪くそこにふらふら出てきた俺の頭にそれがクリーンヒットしたのだった。
「あだっ!」
自分でも意味不明な声を出して、俺はその場に膝をついていた。
「アタル!」
「大丈夫っ?」
ミドリコとヒロカ、それに周りの皆も何事かと集まってくる。
「悪い悪い、平気か?」
木材を持っていた男も駆け寄って来るので、頭を押さえて俺は立ち上がった。
「へ、平気です。痛覚切ってるんで」
ちょっと目が回ってるから軽い脳震盪を起こしてるかもしれないが、それ以外は問題なさそうだ。
「何ともないの?」
横に来て顔を覗き込んできたアカネに驚かれるが、そういえば彼女達にはまだ教えていなかった。
「クダラノのアバターは、感覚の強さを調節できるんだ。……って本に書いてあった」
「感覚?」
3人娘は互いに顔を見合わせるが、その意味が分かっていないのは彼女達だけ。
ここに集まった、少し長くクダラノをやっているようなプレイヤーなら全員が知っている機能だ。
「試しに、自分の頬っぺを
口で言うより
「あれ? 痛くない?」
そして、予想通り驚いた表情をみせる。
「初期では、感覚は無しで設定にされてるからな」
弁当屋のオヤジが言うように、このクダラノの世界では感覚の感じ方が調整できるようになっている。
痛みなどないほうが良いと思うかもしれないが、痛さがないと自分が怪我をしていることにも気づけず、どこに攻撃を受けたのかも分からない。
生きるのにとても必要な機能だったりするのだ。
そして感覚とは痛覚だけでなく、他に皮膚感覚、触覚、冷温覚、圧覚などがあり、それを全て断ち切ってしまうと色々と不都合が出てくる。
生物としての人間の体とは、何とも上手く出来ているのである。
「確かに、この間 刀を握った時に手ごたえがなくてヘンな感じだと思ったの」
ミドリコが言うように、感覚がないと現実世界で無意識に行っている反応や調節が
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