秘密基地②


 あんなことを言われたからには、黙っている訳にもいかない。

 

しかし、廣花にどう話しかけたらいいのか、本当に茜の言うように気分を害しているのか。


色々と考えていたら、いつの間にか放課後になってしまっていた。


クラスの奴等は次々と教室を出てゆき、残っているのは俺と3人娘、それに数人の女子生徒だけ。


明日は土曜。

このタイミングを逃したら、当分話すことが出来なくなってしまう。


そう気づいた俺は、立ち上がって廣花の机へと近づいた。


「あのさ」

「なに?」


勇気を出して話しかけたのに、その態度は素っ気ない。


「い、いや……」


そんな感じで本当に俺から誘われるのを待ってるのか?


それさえ怪しくなって怯んだ俺だが、チラリと目を向ければ廣花の向こう側にいる碧子と茜はこちらを睨んでいる。


ああ、もう、何なんだよ!


「俺さ、またクダラノに行きたいんだけど」


もうヤケクソだと思い、机の上に手をついてそう切り出した。


「ふうん、それで?」


やっぱり興味なさそうな顔がこちらを見ないまま言う。


顔が整っている分だけ冷たく感じられ、ちょっと心にダメージを負った。


しかし、ここまで言ってしまったらもう引き返すことも出来ない。


「廣花と一緒に行きたいんだ」


そう言い切ると、彼女は体の動きを動きを止めた。


何か、まずいことは言ってないよな?


一瞬不安になったものの。


「まあ」


俯いた横顔は、何故かちょっと赤くなっているように見えた。


「亜汰流がどうしても私と行きたいっていうなら、つきあってやってもいいけど?」


急に得意そうに胸を張る居姿。


ツンデレ、と茜が言っていた意味が分かったような気がした。


その茜は、廣花から見えないように俺に何かを口パクで指示している。


言いたいことは分からないが、とりあえず機嫌を取れという意味だと理解した。


「あ、ああ。廣花がいてくれてこの間も助かったし、何とか頼むよ」


男とは、ここまでして女に下手に出なければならないものなのだろうか……。


「うーん、仕方ないなあ。そこまで言われて断ったら女がすたるしね」


けれど。次の瞬間 俺に向けられた、嬉しそうな笑顔。


「よろしくね、亜汰流」


それを正面から見せられてしまったら。

まあ仕方ないか……と思ってしまうのが男のさがというやつだった。


「よし。それじゃ、どこに集まる?」


頃合いを見計らったように茜が話に入ってきた。


出来ればもう少し早く助けて欲しかったが、それを言うとまた面倒そうなので我慢した。


「今はクダラノ専用のネットカフェなんかもあるらしいぞ」


俺が提案したのは、ここ数年で増えた形態の店のことだ。


クダラノは体ごと転送されるシステムのため、プレイは自宅など安全な場所で行うよう注意喚起されている。


ログイン後は、その場にゲーム機やスマホのみが残された状態になるし、クダラノにログイン中と分かるようにしておかないと失踪騒ぎとなる。


そこで登場したのが、個室が完備されたクダラノ専用のネカフェだ。


防犯カメラや店員の見回りで安全性が保障され、部屋も定員も1名用から大人数用、女性専用ルームなどバリエーションがあるらしい。


「そういう所なら、時間を気にしなくていいだろうし」


と説明したのだが、廣花は何かをちょっと考えていた。


ネカフェみたいな場所が嫌いなんだろうか? と思ったのだが。


「それもありだけどさ。良かったら、家に来ない?」


そんなことを言い出す。


……家? 廣花の?


予想外の答えに俺はもちろん戸惑ってしまったが。


「ああ、南町の?」

「そういやあったな」


碧子と茜はなるほどみたいな顔で頷いている。


「あの、さ」


「でも、私 明日は剣道の練習試合あって。終わるの15時くらいなんだよね」

「うちも明日はドームで野球観るんだ。デーゲームだから夕方までには帰ってくるけど」


恐る恐る割り込んでみたものの、俺の存在など無視して会話は続く。


「そっか。それじゃ、明日の夕方頃集合ってことにしようか」


そして、勝手に話は決まっていた。


「いや、それってどこ……」

「それまでに私達で用意しておくから。ね、亜汰流?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る