第6話 私は悪役王女〜綻び〜②
団長にはスルーされるし、ほとんどの団員からは『お客様以上身内未満』の対応だったけれど、同年代の友人とも言えそうな気安い団員はいた。
同年代と言っても、10歳ちょっとの私に対し彼らは最低でも16〜18歳くらいのお兄さんやお姉さんだった。
それでも『同じ10代の子供』の一括りで、最初こそは世話係を押し付けられていた形だけど、3年も付き合えば軽口くらいは叩く仲になる。
そう。私の周りには、彼らしかいなかったのだ。
絶賛進行系で『意地悪でわがままな姉王女作戦』のおかげで、友人どころか知人レベルでさえ作れず、近づく人間すらいない。
妹は妹で、ポンコツを極め続けているので飼い殺しの未来もなくならない。お先は真っ暗闇のまま。
なので、ほとんど唯一の同年代であるのが魔術師団の彼らだったのだけど、忘れてしまっていたけれど、彼らはバッチリしっかりエリート集団だった。
何せ、魔塔で受ける試験に合格した上で魔術師団にいるのだ。
たとえ見習いといえど、彼らは魔術…いや。およそ学問全般のエリートだったのだ。
それに気がついたのは、この『お披露目会』でトリを押しつけられた腹いせに、『絶対に度肝抜いてやる』と下手な反抗心を抱き、やらかしてしまってからだ。
姉王女についての
そう、言われているらしい。
これに関しては、残念ながらその通り。だけど決してサボりではない。
学園入学を前にして、基礎も応用も入学後に教わる大半のことも…教わることがなくなったのだ。
その上で、雇われている家庭教師たちには雇用契約期間という物がある。
姉王女を教えていた教師は、手が空いたら妹王女の家庭教師の手伝いに行かなければいけない。なぜなら、
民衆や貴族といった、城に出入りしない…王族に直接関わる仕事に従事していない人間は、姉王女の噂をそのまま信じているが、壁1枚でも内側で関わる人間は実情を知っている。
つまり、あまりにも不勉強で不真面目な妹王女の家庭教師は、貧乏くじでしかないのだ。
『席についても授業が進まない』『そもそも学習室に来ない』これら姉王女の噂は、そのまま妹王女の行動そのままだ。
それでいて成績が振るわない、と女王からは注意をされているらしい。
妹王女の教師からは『終わったなら早く助けて』と言われているらしいけれど、私担当の教師たちはのらりくらりと逃げ回っているとか。
その結果が、勉強している体裁だけのお茶や雑談。
普通の家庭教師ならこの状況を改善しようと努力するし、親もそれに協力するだろう。だけど、女王は改善することはしなかった。
姉王女により高度な教育を受けさせることも、妹王女に行動を改めさせることもせず…むしろ利用する方向に舵を切った。
悪い部分は全て姉に。良い部分は全て妹に。
結果、勉強をサボりまるダメ姉王女と勤勉で真面目な妹王女が出来上がる。
しかし、何を思ったのか…作り上げた噂の偶像がそのまま本人にトレースされるわけもないのに、披露目会で『噂』を利用して姉王女に恥をかかせようと画策していたのだ。
どうせ妹王女の失敗は約束されている。
誰もが彼女の学習を諦めていた。どれだけ褒めても煽てても持ち上げても一向にものを覚えない。
だから、彼女をあげるのではなく他を落とすことにしたのだ。
都合よく、双子で比べやすい上に、すでに悪評まみれの存在がいる、と。
将来的に王城を出ていくつもりだった私は、魔術師団での評判や噂や人間関係には気を配っていたけれど、王城は全く情報収集はしていなかった。
披露目会で何か計画がある、と少しでも耳にしていれば下手に目立つことを避けたかもしれない。
せめて、地味だけどわかる人間にはわかる魔術技術、くらいには抑えたはずだ。
しかし現実は、実戦実技も芸術実技もとんでもない結果を出してしまい、女王の計画をぶち壊して、妹王女ばかりを贔屓し甘やかす親として泥を塗る形になってしまった。
当然、女王やその派閥の貴族が難癖つけようとしたが、それを制したのが目の前の男。
とにかく褒めに褒めた。
魔術師団長という第一人者が手放しでする称賛に、横槍を入れられる人間はいない。
しかも、息子まで紹介してきたのだ。
この息子。実はまだ正式な面通しはしていなかった。
早めに取り込みたい女王からの催促を、父親である魔術師団長がのらりくらりと交わしていた。
不思議に思っていたけれど、1ヶ月程度とはいえ知ってみればよくわかる。
彼には野心や出世欲は全くなく、なんなら魔術師団長と言う肩書きも邪魔だと思っている節がある。
この野心のなさから、王女(姉妹どちらとも)と息子を近づける気は最初からなかったのだろう。
だと言うのに、自分の近くに来た王女を3年も無視していた男が、いったい何の思惑があってここまで距離を詰めてきたのか?
当初の目的通りといえば、その通りだけれど…この手のひら返しには『やっと当初の目的に近づけた』と言う安堵感と同時に、警戒心も湧き上がる。
前世は、単なる会社の歯車として働く立場で、腹の探り合いと足の引っ張り合いな出世競争とは無縁の…気楽な勤め人だった。
だからこそ余計に目の前の、機嫌良さそうにティーカップを傾ける男の真意が全く読めない。
つい先月までは無関心で、3年間、一切姿も見せなかった男だ。
香りたつ紅茶も、フルーツで飾られたキレイなケーキも今は素直に楽しめないのに、礼儀と当初の目的のために必死に口に詰め込み飲み込んでいる。
(なんで、王女なんて立場に生まれ変わっちゃったんだろう…)
社会の歯車がどれだけ気楽だったのか、幼女の時代に身に染みるなんて…。
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