第4話 私は悪役王女〜計画〜②

 ただし、そんな仄暗い満足感にしか喜びを見出せない未来はノーサンキューだ!!

 最初から『お前は補佐に回れ』『妹王女を支えて国を守れ』と言われていたなら、『将来的には妹を助けてあげて』とお願いされているならともかく。

 悪評まみれにしてどこの誰も欲しがらないように外堀埋めて、孤立させ子供の心を壊し、自分たちの言うこと聞くようにしようなんて、到底許されることじゃない。

 何より、ゲームでの姉王女はこの計画にすでに染まってしまったことが伺えて、いちプレイヤー時代にボロクソ言っていた罪悪感が半端ない。

 だって、姉王女は優秀で頭が良いのだ。

 5歳までの彼女もしっかり心にいるので知っているが、王族としての責任感もしっかり芽生え始めていた。

 そんな彼女が、周囲の思惑を察知できないはずもない。

 妹がどれだけ不甲斐ないか、それなのに自分が出来ることが限られているのだとしたら…周囲の計画に乗って率先して振る舞い、将来的に影からでも国を支えられる位置に入れるように行動していたかもしれない。


 (暗殺者ルートは、その過程でやっぱり耐えきれずに心が壊れてしまったからこそ、起こったルートだったのかもしれない)


 しかし、残念ながらここにいる姉王女わたしはそんな自己犠牲に溢れた思考の持ち主じゃないし、愛国心もないし、家族への愛情もないし求めてもいない。

 私1人が耐えれば、なんて考えはない。

 必要とされたい、愛されたいという欲求はあるけれど、それが周囲の人間…つまるところ両親や妹に愛されたい、と強く願うほどの家族への愛はない。


 とはいえ、自ら脱線して存在もしない別ルート行く手立てが…


 (実は、ある!!)


 王女としてではなく、一個人としての有用性をすでに構築…分かりやすく言うと、実績や名声を積んで手出しも文句も言えない地位を確保すれば良いのだ。


 ベッドから降りて、部屋の隅にあるチェストに向かう。

 このチェストは姉王女ルシエラの宝箱だった。

 ボロボロの人形。なんの変哲もない無骨な木製のサイコロ。真っ白な紙の束と小さくなったクレヨンのセット。

 5歳までの姉王女ルシエラが必死に守って隠していた、妹に取られなかった宝物たち。

 そこに、5年間で新しく加わったのが王城の俯瞰図と1本のペンだ。

 インクではなく魔力を使って書くペンで、色を変えるのも、書いた本人しか見えないようにするのも、消してしまうのも書き手の魔力操作次第の特殊なペン。

 当然、一般に出回っている市販品ではないが特別に高級なわけでもない。

 ただ単純に、一定以上の魔力操作ができる人間じゃないと使いこなせないし、その一定以上のラインが高水準なだけだ。

 魔術関係の仕事をしている人間や、将来的に魔術や魔力に関わる仕事をしたいと思う少年少女の教材としてはポピュラーな方だし、なんなら大人になってからも普通に使う人もいる。

 魔力を使うインクは個々人の魔力の性質を反映し、似通った色や滲みはあれど全く同じものは存在しないため、むしろ魔塔や魔術師団などでは主流な筆記具だ。

 手持ちのペンも、魔術関係全般を教える家庭教師のおじいちゃん先生がくれたもので、彼は教育機関の他に魔塔にも所属している。

 すっかり開いた差により、ミラエラとはほとんどが別の家庭教師で授業内容も授業時間も別だ。

 彼女はこのペンの存在をまだ知らないし、知ったとしても使えるようになるのは当分先だろう。

 窓際のお気に入りの場所に置いてあるテーブルに地図を広げ、目星をつけている施設の名前を探す。


 (あった…魔術師団本部!!)


 この国の2つある軍隊のうち、1つが騎士団、もう1つが魔術師団。

 王城内にそれぞれの司令部があり、騎士団が『騎士団詰め所』。魔術師団が『魔術師団本部』と呼ばれている。

 広い城内の各所に防衛目的の拠点があり、見回りが城内勤務の主な仕事になっている。

 攻略対象である脳筋キャラは騎士団長の息子、インテリキャラは魔術師団長の息子で、それぞれのルートでよく関わる場所だ。

 ちなみに、ゲーム中では騎士団詰め所や魔術師団本部、と正式名称でテキスト表示されていて、逐一、正式名称で呼んでいた印象だったけれど、実際は『詰め所』『本部』と略されていた。


 私の狙いはこの魔術師団本部。

 純然たる実力主義を掲げ、団員も身分出自を問わず、本当に実力だけで評価された者で構成されている。

 ここで自分の実力を示し、確固たる地盤を構築するのが目標だ。


 (それも今すぐ初めて、学園入学の前に!)


 タイムリミットは5年…いや、入学前までだから4年だ。

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