第2話 私は悪役王女〜目標〜②
(私っ…可哀想すぎない!?でも、それも今日までだから!)
少なくとも、頭良すぎて周囲とうまく意思疎通ができないもどかしさを、ワガママで癇癪持ちの扱いにくい子供、と言う認識は変えられると思う。
(…そう思うと、本当の癇癪持ちは
まぁ、こっちも年月と共に落ち着くはず。多分。ゲームではここまで酷く姉と一緒が良い、とも言っていなかったし。
いや、ゲームでもよく転んではいたけど。少なくとも、それを姉のせいにしてはいなかった。
何も無いところでコケるのは単なる『私ってドジ☆』と自覚するようになっているはず、と思いたい。
思い出せるだけ書き出したメモや今後の対策で、大量にあった紙束が半分以下になる頃には部屋もすっかり薄暗く、物書きができる明るさはとうに過ぎ去っていた。
それなのに、部屋に灯りをつけに人が来る気配もない。
(早急に世話してくれる大人を確保する必要があるね)
何せ、この世界の記憶は5歳まで。
常識も生活様式も丸切り違う世界で、一人ではできることに限りがある。
何より子供だし。体力的にも無理はできない。
それでも、埋まったメモによって今後の方針も決まって気分も多少は前向きになった。
紙束は見つからないように引き出しの奥に隠し、窓辺に戻れば等間隔で置かれたランプに照らされた庭園が見える。
「いつかはみんなで、笑ってお茶会とかしたいな」
画面越しに見たキャラクターたちは、色々な葛藤や悩みや試練がありつつも最終的にはヒロインと笑顔でエンディングを迎えていた。
そこに成り代わりたいとは思わない。
だって、彼らを救うのはヒロインの仕事。図々しくもそれを奪うつもりはない。
ただ、背景にいても良いと許されるくらいには環境を良くしておきたい。
なにしろ悪役王女の末路は、しっかりと明記されていないのだ。
エンディングのモノローグで『
正直、ゲーム中で彼女がしてきた悪事なんて些細なものだ。
赤点ギリギリのヒロインを笑い、転んだ彼女を笑い、迷子になったのを笑い…と、ヒロインをバカにするために登場するだけ。
しかもその後には必ず攻略対象が登場し、ヒロインを庇って慰めてときめかせるのを『キィ〜〜!!』と地団駄して悔しがって退場と言う、見事な噛ませ犬ムーブにしか登場しない。
毒を盛ったとか、怪我をさせたとか、殺しかけたもない。
転ぶヒロインを笑うのだって、ヒロインが勝手にコケるだけで突き飛ばすわけでもない。
隠しルートで暗殺者を差し向けたことになっているのが唯一の実力行使っぽいけれど、それが他ルートでも適応されている様子もない。
つまり、ゲーム中では罪らしい罪を犯していないのだ。
ラストシーン以外では。
シナリオの1番の盛り上がりであり、エンディングでもある卒業式。
そこでヒロインは1番好感度の高いキャラからプロポーズを受けると同時に、選定期間を乗り越えたことで女王から後継者に使命をされる。
そこに横槍を入れるのが悪役王女である
この姉王女…つまりは私なんだけど。ゲーム中でクドイくらいに『意地悪な姉王女』と言われるのと同じくらいに『大変に優秀』とも描写されていた。
ヒロインは攻略対象を引き立てるためなのか、とにかくポンコツ具合が目立たせられるが、反対に姉王女は大変に優秀で、テストをすれば上位に名を連ね、運動神経もよくダンスの成績も良い。人柄はともかく美的センスにも優れ、マナーも所作も完璧と、およそ悪役に対する評価とも思えない評価を下されていた。。
しかし、これらの素晴らしいポテンシャルを台無しにしてしまうほどに『性格が悪い』と言うことの強調なんだろうけれど…。
そんな、何においても上位だった姉王女の攻撃を、女神の加護に目覚めたヒロインが返り討ちにすることが、プレイヤーとしてはスカッと感と言うかカタルシスを得られる瞬間でもあった。
(チマチマネチネチと、まぁ〜嫌味な登場ばっかりだったからね)
登場のたびに負け犬として退場していくが、それはそれとして小さなヘイトが重ねられていたキャラだけに、唐突な展開ではあったけれど気分はスッキリして終われるラストだった。
(外から見ている分には、ね)
いざ自分がその『姉王女』になると途端に不安になるのが、エンディングの向こうにも続く現実の世界。
死んだとは書かれていないので、生きてはいると思う。
しかし、だからこそ改めて裁かれるのだろう。
何せ、後継者として認められ加護を得たヒロインはすでに王太子。
そんな彼女を攻撃するのだから紛れもなく大罪。国家反逆罪で普通は死刑だろう。しかしそこは性格が悪かろうと一応は王女なので、幽閉か追放か。
何しろこのゲーム。後のシナリオライターが作っただけに、単調で単純なストーリーに反して、意味深なセリフや深読みできそうな表現が随所にあるのだ。
それなのに徹頭徹尾、シナリオはヒロインとヒーローの恋路しか語られない。
モノローグやクリア後特典で解禁される設定資料では、キャラクターの紹介はゲーム中の情報しかないのに、世界設定だけはやたらと凝っていたのだ。
「絶対に続編やシリーズ化する伏線だって、当時のレビューにあったな…」
気になって調べた時に当時のレビューをいくつか見つけたけれど、どのレビュアーも『作者はこの世界観ですシリーズを構想しているに違いない』と言われていた。
しかし結果的に以降の発表は何もなかった。制作したゲームもこの1本きりで、数年後に深夜のショートアニメのシナリオ制作で名前が出るまで、音沙汰はなかった。
いくつか類似の設定ぽいラノベや原作付きマンガが、そのライター作じゃないか、とも考察されていたけれど、いずれも決定打もなく噂の域を出ないで終わっていた。
つまり、エンディング以降の事前情報は何もないのだ。だからこそ、備え対処しておくに越したことはない。
むしろ、
しかし、何はともあれ…。
「まずはお世話をしてくれる大人でしょうね」
とっぷりと日も暮れ部屋は真っ暗。それなのに部屋には誰も来ない。
幼い体は、さっきからず〜っとグウグウと腹を鳴らし空腹を訴えてきている。
「お腹すいたよ〜」
食べ物はおろか、水差しもないので本当に飲まず食わず。
(これは想定以上にヤバい状況かもな…)
環境改善が一番の急務かもしれない。
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