第3話 私は悪役王女〜諦め〜①

 そんなこんなで、目覚めてからあっという間に5年が経ちました。10歳です。

 『意地悪な悪い姉王女』の評価を覆すため、涙ぐましい努力を続けてきました。

 渋々嫌々なお世話をするメイドに無視をされても、居心地の悪いお茶会に出席してヒソヒソコソコソされても、全てを笑顔で乗り切った。

 何を言われても怒らず、癇癪も起こさず、機嫌も損ねず、コツコツと小さな評価を積み重ねた。

 でも1番効果があったのはお勉強で、ゲームの設定が大いに役に立った。

 ラストシーンの一瞬ののためにつけられた、『全てがヒロインよりも優秀』と言うアホみたいな設定は、日常生活においてはこれ以上にないほど有用な設定だった。

 ゲームではせいぜい、テスト勉強イベントの締めに『やっぱりおバカね』と自分よりも順位の低かったヒロインを笑うか、時々思い出したように『姉王女さまはもうこの課題はクリアできてますよ』と、嫌味なのか発破なのかを教師からされる程度の演出しかなかった。

 それ以外はラストシーンの返り討ちの『あれだけ見下してきた姉王女にやり返したぜ!ざまぁ見ろ!!』に使われたくらい。

 それくらいプレイヤーの心情的にもゲームの演出的にも、どうでも良い設定だった。

 しかし、これがめちゃくちゃ役にたった。


 王女としての教育が始まり、1日の大半を家庭教師がと言う第三者がはいるようになると、私と妹は別行動が増えた。

 理由は単純で頭のだ。

 はっきり言って、前世の私は可もなく不可もない平凡な人間だった。

 しかしこの体の持ち主ルシエラは、勉強も運動も芸術方面も、魔力の量も扱い方も、術式の暗記も…およそ全ての分野の『お勉強』で大変優秀だった。

 これはもうチートだよ。

 最初の方は『お姉さまばかり褒められてズルい』と泣かれて困り果てたけれど、そんなことしてる間にもどんどん差は開く。

 ここで城仕えの人間や取り入りたい高位貴族だったら甘やかすのだろうけれど、専門の教育機関に勤め派遣されてきた家庭教師は、忖度はしなかった。

 何せ、みんなその道のプロだ。育て上げた生徒の評価や評判がこそが実績となる彼や彼女たちは、『教える』と言う行為に対して決して手を抜かない。

 ましてや未来の女王になるかもしれない王女の教育だ。いずれ国を背負い立つ生徒なんて、これ以上にない教え甲斐に満ちた生徒だっただろう。

 そうして家庭教師が熱を入れれば入れるほど、保身のためとはいえ必死に着いていこうとする私と妹王女ミラエラの間には、いつまでも埋まらない差が生まれ授業は別に受けることになった。

 結果、1日のほとんどが別行動。

 顔を合わせる機会が減れば、自ずと妹王女を『物理的にイジメる』と言う噂は鎮まったけれど、代わりに『陰でバカにしまくっている』という噂が流れ始めるた。

 仮に私が自分よりも成績の劣る妹を馬鹿にしているのだとしても、それを言い合えるような友人なんて居ない。

 悲しいことに悪口で盛り上がれるようなお友達も知り合いも居ない。

 それなのに、果たして私は一体誰と悪口を言い合って盛り上がり、あまつさえそれが爆発的に広がるような交友関係を持っていただろうか?

 何せ、出席するお茶会の悉くが失敗に終わっているのだ。

 友人作りの一環な子供の集まりは、そこには必ず呼ばれる攻略対象でもある公爵息子のディウス・グリスウェインがいて、それはも〜大活躍してくれちゃっていた。

 誰よりも早く王女達と顔合わせを済ませる特権を与えられた貴公子の卵は、しっかり幼馴染と周知され王女達の出席する集まりには必ず出席し、か弱く可憐な妹王女ミラエラを守る正義の味方ヒーローのように姉王女わたしにケンカを売るのだ。

 やってもいない妹王女への嫌がらせを糾弾しては場の空気を最悪にし、背に庇われたミラエラが泣き出すお決まりの展開。

 締めのセリフは決まっていて、必ず『お姉さまごめんなさい』と何もしていない姉王女ルシエラに、何もされていない妹王女ミラエラが謝るのだ。

 これのお陰で『やっぱり陰でイジメてるのかしら?』と、噂の信憑性を底上げされる。結果『あの子に関わると面倒』と言う評価だけが残った。


 それでも良いことが多少はあった。

 専属の世話係と護衛がついたことだ。

 最初は押し付けられて嫌々に仕事をしていた侍女も、今では真面目にお世話をしてくれる。

 身近で普段の生活を見ていれば、噂には全く信憑性がないことに気がつくからだ。

 事実、自分の耳で姉王女が妹王女に言及なんてしていないのを知るわけだし、悪口で花を咲かせるような友人もいないのも知るわけで…。悲しみの無実証明。

 とは言え、家庭教師や侍女に見直されたからといって、一足飛びに評価は覆らない。現実はシビアなのだ。

 それでも、おはようからおやすみまで世話してくれる大人がついてくれるだけで、普段の生活が格段にしやすくなった。

 それだけ子供というのは、大人の手がないと日常生活が送れない存在なのだと実感した。

 前世の両親や面倒を見てくれた全ての大人に感謝したのは言うまでもないし、尊敬する職業の上位に『保母さん&保育士さん』が入ったのは言うまでもない。

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