第3話 洗濯

 彼らの生活は石器時代から姿を殆ど変えていない。となれば必然的に家の構造も昔と変わっていない。


 地面を掘り下げて床とし、伐採した樹木で骨組みを形成して葦などの様々な植物と粘土状の土を合わせたモノで屋根を作る。その屋根は地面まで伸ばされ頂点から地面まで斜辺が作られており、屋根と外壁の役割を担っている。

 家を正面から据えた時、左右の辺の内角が等しい台形を思い浮かべてもらうとわかりやすい。その下底に触れる形で、真ん中に入り口が穿たれている。


 大人であれば背を屈ませないと通れない入り口をレイは容易く走り抜けると、レイの母親が洗濯の準備をしていた。


 この時代の服も植物をあしらって作られており、中には狩りで得た動物の革で作られたモノを着ていたりする。レイの家族は前者で、丁度母親が家族分の衣服を籠に入れている所だった。


「お母さん、ボクも手伝うよ!」

「おや。それは嬉しいね。じゃあ半分……いや少しでいいから持ってきてくれるかい?」

 

 籠に入りきらない衣服をレイに渡す母親。

 母親は白が多く混じった灰色の髪を一つに束ねて左肩に下ろしている。父と母で白黒の夫婦といえば分かりやすい。瞳の色も髪と同じだ。


 計四人。父親と母親にレイ、それにレイの兄の分を持って二人は近くの水流へと向かう。


「お兄ちゃん、今日は何取ってくるかな」

「なんだろうね。クリかもしれないしクルミかもそれない、それかドングリ⋯⋯まあ、取れただけマシね」


 この村では大人になった男のみが狩猟を許される。それまでは主に生活の運営、木の実の採集に勤しむ⋯⋯のだが。


「えへへ。もしかしたら、シカさんとかとってくるかもね!」

「もう、本当にやめて欲しいわ⋯⋯あの人ったら、村のルールはともかく、まだセロも幼いのに⋯⋯」


 セロというのはレイの兄貴のこと。

 最近の母親の悩みは五歳のレイと八歳のセロが狩りに興味を持ってしまうことだった。狩りに興味を持つだけならまだいいのだが、実行に移そうとしている事が母親の心配の種。

 それもこれも、二人を唆す全て母親の夫にして二人の父親のせい。

 この間もセロが人知れず子鹿を捕ってきた事があり、もし隕石が降って来たならば母親は同じ顔をしただろう。


「ボクもお父さんみたいに強くなる!」

「それは良いけど、怪我だけはしないでよ。お母さん、心配なんだから」

「うん!だいじょうぶ!」


 はぁ、とため息をつく母親をよそにルンルンとご機嫌なレイだった。自分も何かの役に立てているのが嬉しいのだろう。


 ほどなくして、森から村へと流れる小川に到着した。その川は浅瀬で幅も狭い。大人であれば走ってジャンプでもすれば飛び越えてしまう程の狭さだ。それこそ、泳ぐことは出来ず、生活用水として村の人々に役に立っている。


 川の位置は村の端。小川を境に村が出来ている。小川の手前は村で跨いだ先は野原が広がるばかり。

 村全体を四角形に例えた時、三辺は森に面しており、残り一辺は今レイとその母親がいる小川だ。


「落ちないように気をつけてね。いくら浅いと言っても、川ですから。流れに呑まれれば溺れてしまうからね」

「はーい!」


 そうして、無事に洗濯を終えた二人は家へと戻った。

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