第2話 とある村
文明を知らぬ村がそこにはあった。
世界の端っこ。小さな小さな村。石器時代から殆ど変わらぬ生活を続ける人の群れ。森の中にポツンと存在するその村は、閉鎖的で独自の村社会を形成していた。
この村の歴史は書物にするほど特筆すべき事はないが、かといって歴史が浅い訳でもない。
どんな環境、どんな歴史があれど人は群れを作らねば生きてはいけない生命。ならばその群れさえ確立させ確実に続けさせれば、自分達の生活は保証されると、先祖達は思ったのだろう。
……この村は近親交配により血筋を続けている。
外界と関わらないのも、村を脅かす外的要因との接触を避ける為でしかない。外に関わる全てがそうとは言えないが、リスク回避の為には全てを遮断せねばならなかった。
そうして代が続き、閉鎖的な習慣が染みついた頃には、村人の人数が二十人程度に減少していった。
そんな、極小の村にレイという幼き少年がいた。
「レイ。お父さんは今から森の中に行って食料を獲ってくるから、お母さんのお手伝いをしてあげなさい」
黒い顎ひげが特徴的な、高身長で筋肉隆々とした身体の男はレイの父親。肌は小麦より少し黒く、小さめの熊程度なら戦えてしまうのでないだろうかと思うくらいに、体格に恵まれていた。
丁度片手に石で作られた斧を携えて森へ入るところのこと。
もう片方の空いている大きな手に頭を撫でられるは、その男の子供。つまり、レイだ。
短い黒髪に父と同じ翡翠色の目。肌は母に似て白く、身体つきも今のところ見込みがない。将来の事は分からないが、力こそ正義と掲げる父親と違って、母親のような優しい心を持った青年に育つのだろうと思う。
「うん!わかった!お父さん、きをつけてね!ボクもいつか、お父さんみたいにつよくなりたいな」
「ははは。なれるさ、レイなら。だが言葉だけでは強くはなれんからな。オレのようになりたくば自ら行動しなければなれない」
父親の手がレイの頭から離れる。そして大きな手の影から覗くように、レイは自らの父親を見上げた。
「こうどうって?」
「簡単に言うならオレと同じことをすればいい。もちろん、いきなりデカブツを狙わなくていい。最初は小さな野犬や野鹿を追うところから始めてみろ。競争に身を置く事で男は成長できるんだ。……あ、一人ではやるなよ?あぶないからな」
思い出したようにレイに釘を差す父親。狩猟だの命のやり取りだの、生活を運営するにあたっては欠かせない事柄であるが、それを幼子であるレイにやらせようとするもんだから、レイの母親から度々こっぴどく叱られているのだ。ちゃんとレイに釘を差して保険をかけておかねば後が怖い。
要するに
「じゃあお父さんは行ってくるから。お母さんを頼んだぞ」
「はーい!」
レイの父親は背を向けて森の中に吸い込まれていく。その大きな背中が森に隠れてしまうまで、レイは手を振っていた。
そして、すぐさま家にいる母親の元へと戻ったのだった。
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