やり直し
高山
第1話
俺は悪役貴族、マグナート・フォン・ルーカス。全てを思い出した瞬間、理解してしまった――ここは『恋愛RPGゲームの世界』で、俺は悪役貴族のキャラだ。そして待ち受ける未来には破滅の運命がある。気づいてしまった以上、この運命を変えるために動かなくてはならない。
「ルーカス、どうしたの?」
「…少し考え事をしていました」
「そう、悩みがあるならいつでも話してね」
まさか、こんなことが現実に起こるなんて。まずはこの世界の設定を確認する必要がある。このゲームの難易度によって、ストーリーの展開が大きく変わるからだ。
「申し訳ありません、母上。少し体調が優れないので部屋に戻ってもよろしいでしょうか?」
「大丈夫? 神官を呼ぼうかしら」
「いえ、それには及びません。少し疲れただけですから」
「そう…無理しないでね」
母に別れを告げると、俺は父にも一礼して部屋へ戻った。落ち着いたところで、この状況を整理し始める。
俺、「マグナート・フォン・ルーカス」は名門貴族の天才という設定だが、努力を怠り、主人公に敗北してすべてを失う運命が待っている……そう、このゲーム内での俺はまさに悪役キャラだ。しかし、幸運にも今はまだ時間があるし、持っている才能も無駄にはしない。破滅の運命を変え、最強の存在となって誰にも負けないために努力を重ねると決意した。
まずは剣術から始めよう。以前、剣の基礎を教えてくれたガイナス先生に再び指導をお願いするため、修練所へ向かった。運よく彼は休憩中だったので、礼儀正しく頼むつもりで口を開いた。
「すいません、また剣術を教えてください」
……そう言おうとしたが、なぜか口から出てきたのは別の言葉だった。
「おい、俺に剣を教えろ」
――え? 思わず自分でも困惑する。ガイナスは目を細め、厳しい表情で俺を見つめてきた。
「今、なんと言った?」
「何度も同じことを言わせるな」
まるで俺の意思に反して、この悪役キャラとしての台詞が勝手に出てくる。この世界は、俺の行動すらも物語に縛り付けているのか? だがガイナスはその無礼を咎めることなく、微笑んで返してきた。
「これは失礼しました。喜んでお受けいたしましょう。明日の朝6時にここに来なさい」
「あぁ」
どうやら、この悪役キャラの口調は簡単に変えられそうにない。部屋に戻って頭を抱えた。どうやってもイメージが最悪なままだ。ルーカスとしての意識が、俺の行動に影響を及ぼしているせいかもしれない。だが、こうなった以上、圧倒的な強さを手に入れるしか道はないと再確認した。
次の日、ガイナスの言葉通り、朝6時に修練所へ向かった。ガイナスは驚いたように俺を見つめた。
「ルーカス様、本当に来られたのですね…」
俺がどれだけ「努力嫌い」であるか、過去に剣術をコピして即終了したことを彼は覚えているのだろう。そんな彼の視線を感じながら、俺は言われるがままに剣を振った。
「では、自分の思う通りに剣を振ってください」
あぁ――
剣を振っているうちに、重心の位置や構えが「こうした方が良い」と感覚的に分かるようになってきた。ガイナスはしばらく俺の動きを観察していたが、満足げにうなずいて言った。
「さすがルーカス様。私が指導するまでもなく、基礎がしっかりできております。いきなりですが、私と試合をしてみるのはいかがでしょう?」
内心、「試合は早いのでは」と言おうとしたのだが――
「ほー、お前は人に物を教えるのが苦手なバカか?」
…え? また俺の意志とは異なる言葉が口から出てしまった。ガイナスはそれでも動じることなく微笑み、「大丈夫です、怪我のないよう手加減いたしますので」と答えた。
その言葉に、なぜか内なるルーカスの意識が「殺す」「殺す」と沸き立つのが分かった。どうやら、ルーカスの意識はバカにされると相手を排除したい衝動に駆られるらしい。
「…分かりました、受けて立ちます」
そうして俺とガイナスは剣を構えて
ガイナスは先手を譲ってきた。その態度に少し苛立ちを覚えながらも、俺は大振りな攻撃は避け、手数で攻めることにした。
しかし、ガイナスは必要最低限の動きで軽々と防ぎ、さらに重心移動や足運びを使って巧妙にフェイントをかけてくる。そのため、攻撃のタイミングが微妙にずれてしまい、決定打を与えられない。焦りが生じたその隙に、ガイナスの剣が鋭く打ち込まれ、俺は無理に防いだせいで体勢が崩れ、大きな隙をさらしてしまった。
だが、ガイナスはその隙を攻撃しようとしない。
――だが油断している間に相手の技術を自分の物にしてやる。
右、左、左、左、右、ガイナスと、剣を合わせること30分。もうフェイントには引っかからないが、ガイナスも俺に合わせてくるため、どんどん自分が成長している実感がある。
だが、今まで運動していなかった身体は体力が尽き、倒れて意識を失った。
やり直し 高山 @mitsuitoshiaki
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