KAC2024第7回『色』
所クーネル
KAC2024参加作品
あなたは私を色と呼ぶ。
たぶん古風で下品な呼称なのに、私はそれを許している。
初めて耳にしたときには、なんて綺麗な音なんだろうと思った。
色……
いろ……
イロ……
光の波長を目が区別しているだけなのに、色は世界に意味を持たせる。
彼の無味乾燥な余生に、私は彩を添えている。そういうことだと思ってる。
モノクロに褪せていく彼と、七色に輝く私。そうじゃなければ成立しない関係なんだと思ってる。
私もずいぶん古風な人間で、人のことなんかいえやしない。
人のものを欲しがるのは、じゅうぶん下品だものね。
辞書を引いた。
不思議。
学生に戻ったみたい。
嘘。
そんな真面目な生徒じゃなかった。
今のほうが、よっぽど真面目。
いい子だと呼ばれるとたまらない。
悪い子の方がもっといいけど。
色って言葉はもともと、私の思う「カラー」のことじゃなかった。
色は二つに分解できる。「ク」のところが一人で、「巴」のところがもう一人、跪いた人なんだって。
跪いた人の上に人が乗っている。それが男女の情欲を示したという。
だとしたら、私とあなたのどっちが跪いているのでしょうか。
それはともかくとして。
転じてその相手を色と呼び、その人を可愛く思ったり美しく感じたりするから情人を「色」と呼ぶ。
さらに転じて色彩を表すようになったというのだから、もっと不思議。
とりどりに鮮やかな世界を構成しているのは、誰かを恋しく思う気持ちなのかもしれない。
誰かに恋焦がれると、途端に景色が明るく見えるような。
だとしたら、確かに私は色でしょうけれど、あなたは色ではないかもしれない。
色が世界に意味を持たせるのか、色に意味を持たせた世界なのか。
不毛な関係には黒点を打って終わらせたい。そうしないのは、あなたが私という着色装置を手放さないから、ではない。
カラフルに輝いている私を私が好きだから。
誰かの目を通して見える美しい私は、誰かに恋焦がれた途端にモノクロに沈む。
悪癖。
それはどんな色かしら。
KAC2024第7回『色』 所クーネル @kaijari_suigyo
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