色④。~ 色気は女の武器だけど ~

崔 梨遙(再)

1話完結:約2400字。

 僕が名古屋の広告代理店にいた頃、20年ほど前のお話。



 僕は転職した。広告代理店だ。職種は企画営業。営業未経験からスタートして3ヶ月ほど経ち、ようやく1人前の営業マンとして認められてもらえるようになっていた。そこへ、2人のテレフォン・アポインターさんがやって来た。1人は明日香29歳、1人は涼子26歳(もうすぐ27歳)の女性だった。明日香は子供はいないが結婚していて、涼子は婚約者がいて1年以内に結婚するらしい。


 2人とも美人だったが、タイプが違った。明日香は小柄だがスタイルが良く、ショートカットで美人というよりもカワイイ系。涼子は彫りの深い美人系でスタイルが抜群。胸は大きく、ウエストは引き締まっていて腰のくびれが魅力的だ。不思議なことに、2人とも20代とは思えない色気があった。


 電話でも、どうやら彼女達のフェロモンは伝わるらしい。2人は、アポを取りまくった。それはいい。だが、スケジュールが詰まっている僕に、2人がとったアポをねじ込まれるのには困った。お客さんに謝って時間の変更をお願いしなければいけなくなるのだ。そして、彼女達のアポに行くと、お客様から言われる。


「え! 電話のあの娘(こ)が来るんじゃないの?」

「あの娘が来ると思ったからアポOKしたのに!」

「詐欺だ!」


 まあ、かなりヒドイことを言われる。だが、そこで、


「失礼しました-!」


と言って帰るわけにはいかない。


「誤解があったようですね、その件に関しましてはお詫びします。ですが、せっかくですので少しだけお話をさせていただけませんか?」


 そう言って、必ず申込み書をもらってくる。僕がテレアポさんのアポに行って商談をまとめてくるので、またテレアポさんのアポが僕に委ねられる。テレアポさんのアポで申込み書をもらっても、僕の給料が上がるわけではない。テレアポさんが評価されるだけだ。僕にとっては、テレアポさんのアポを回されても得することは無い。ただ、テレアポさんの評価と給料が上がるだけだった。


 僕は、3回、上司に言った。


「お客さんは、彼女達が来ると思ってアポをOKしています。僕が行っても、“なんで男が来るんだよ!”と怒られます。テレアポさんのアポの取り方を改善してください。誤解の無いように」


 だが、改善されることは無かった。会社(上司)としては当然だ。アポが取れて僕が商談をまとめれば、会社にとっては都合がいいからだ。だが、それだと僕のモチベーションが下がる。


 上司に言っても改善されないので、2人のテレアポさんに直接3回注意した。


「どのお客さんも、あなた達が来ると誤解してアポをOKしています、そこへ僕が行っても、“なんで電話の女の娘が来ないんだ?”と怒られます。アポを取るとき、誤解されないようにしてください」


 結論から言うと、何も変わらなかった。“電話の女の娘が来る”と思って期待していたお客様をガッカリさせてしまうことが続いた。


 或る日のこと、僕は日中は営業で外にいるのだが、その日はデスクワークがあったので昼に会社にいた。そこで、テレアポさんの電話を横で聞いていたら、


「それでは、おうかがいしますね~♪ よろしくお願いします~♪」


と言っていた。“ああ、この言い方なら絶対に誤解されるやろなぁ”と理解した。


 上司に言っても、テレアポさん本人に言っても改善されないので、僕は諦めて開き直った。僕は明日香と涼子に言った。


「これから、遠慮無く思いっきり女の武器を使ってアポをとってください! 僕が行って、なるべく大きな額で商談をまとめますから。僕等は、お客様の“明日香さんや涼子さんに会える”という期待をことごとく裏切って猛進しましょう!」


 僕がOKを出すと、明日香も涼子も更にアポが取れるようになった。そしで僕が商談を決める!僕等3人は最強のトリオと言われ、月間社内MVPを順番に獲得した。


 今、振り返ると、これで良かったのかもしれない。僕等3人の黄金時代だった。黄金時代と思える時期があった、それは美しい思い出になっている。



 そして、後日談。


 僕は、涼子を飲みに誘った。廊下で2人きりになった時だった。その日は仕事を早く終わらせられたので、仕事終わりの涼子を少しだけ待たせて合流、涼子の行きたい店(フレンチ)に行った。涼子は、僕のおかげで収入も評価も上がっているので、僕に対して好感を持っているのはわかっていた。食事中も涼子は終始上機嫌だった。僕は、婚約者について聞いてみた。


「涼子さんの婚約者やったら、めっちゃイケメンでしょ?」

「そんなことないよ、普通、普通、背もそんなに高くないし」

「ほな、お金持ちなんでしょう?」

「普通、普通、庶民というか中流というか、たいしたことないよ」

「ほな、めっちゃ愛されて、めっちゃ優しくされてるんでしょ?」

「それがね……最初はめっちゃ優しかったんだけど、2年付き合ってたら、優しくなくなっちゃった」

「そんなに冷めてて、結婚しちゃっていいんですか?」

「うーん、でも、断る理由も無いのよね」

「なるほど、全てが合格点やけど、飛び抜けて好きというわけではないと?」

「そんな感じ。私も、このまま家庭におさまるのも寂しいなぁって思ってるの」

「ほな、結婚前に僕と遊びませんか?僕、今フリーやし」

「え!本気で言ってる?」

「はい、結婚したら手を出しません。不倫は罪だと思うから。でも、涼子さんはまだ結婚してないから、ただの遊びということでええんとちゃいますか?」

「どうしようかなぁ」

「迷うなら、ホテルで迷ってください。行きましょう」



 僕も、ようやくご褒美をもらえた。涼子がとったアポの商談をまとめ続けたから、涼子の好感度が上がって結ばれたのだろう。余談だが、涼子は素晴らしい女性だった。マリッジブルーの涼子の心の隙間に入ることが出来た。僕は心の隙間に入るのが得意だ。それも黄金時代の美しい思い出に含まれている。僕は女性が好きだから!







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