第9話日本最強の殺し屋、新しく増えた借金に悩む

 殺奈の魔法少女デビューから二日後。


 事務所の休憩所のベンチで腰掛けていた殺奈は、持参したタンポポコーヒー入りの水筒に口をつけて内容物を飲む。自宅の近くにある河川敷で大量に収穫できるため、いつも煮出して浴びるくらい飲用している。


 そうして、ちびちびと啜りつつ一昨日の戦闘を思い返してみた。


 あのあと、すももと一緒に警戒体制のパトロールを行なった殺奈。羽蟲人がその日のうちに何度も奇襲を仕掛ける可能性は否定できないため、気を張り詰めて市街地の周りをウロウロした次第だ。


 結局、その日は一回の侵攻で幕を閉じたが、近いうちまた奴らの戦艦がやって来るだろう。気を引き締めてなくてはならない。


 ちなみに、結界装置は故障していたらしい。三日で修理されるそうなので一安心だ。デビュー初日に修理に出しておいた殺奈のステッキも、新品同然の状態で戻ってきたので万々歳だ。


 と、


「あら、ここにいたの」


 カジュアルなコーデのすももが、一冊のノートを携えて殺奈のもとまで近づいてきた。そして、殺奈と面と向かって仁王立ちしてから、


「これ、あたしが一人前の魔法少女になるために書き留めた奴だから、参考にしなさい」


 そう説明して、ノートを殺奈に手渡す。パラパラとめくれば、確かにそこには浮遊魔法の効率的な飛び方や魔法少女としての心構えなどが書かれている。汚い字だけど。


 そのノートを手渡してくれたすももは、休憩所に設置されている自動販売機に小銭を入れて、おしるこをプッシュする。そのおしるこを買ったすももは、缶のプルタブを開けて、ポケットから取り出したスティックタイプの砂糖を缶の中に入れた。それを一気に呷ったあと、殺奈のほうに顔を向けてから、


「……昨日の戦闘、遠巻きだけど見ていたわ」


 どこか殺奈を危険視する目つきで言葉を紡ぐ。続けて、


「あんな戦い方、見たことがないわ。……あんたはいったい何者なの?」


 怪訝な表情を浮かべつつ、そう尋ねた。


 おそらく、殺奈の尋常ならざる戦闘能力に疑問を浮かべたんだろう。おもわず頭の上に疑問符を浮かべてしまうんだろう。


 だが、殺奈は裏の経歴をバラすつもりはない。殺し屋事務所に入ったさいに、黒木社長に誓約書を書かされたのだ。裏社会の口外禁止は絶対厳守だと。


 それに、過去の経歴はあくまで過去の経歴。いまは未来まえを向いて歩いて行きたいと思う。


 なので、殺奈はこう答えた。


「……ただの魔法少女ですよ」


「……あっそ」


 殺奈が口にしたごまかしで興味を失ったのか、すももはそれ以上ほじくり返そうとはしなかった。


 と、


「……あっ、そういえば忘れていたわ。はいこれ」


 すももが思い出したかのように口ずさみながら、ポケットから取り出した四つ折りの紙を殺奈に渡す。


 それを開閉すれば、形式的な文面と数字の羅列が印字されていた。


 題名は、『プリズマ・ステッキの修理代の請求』。


 その金額は……。


「五百万っ!?」


 心臓が飛び出そうになった。脂汗はブワッと出てしまったけど。


「だから言ったでしょ、高いって」


「…………」


 すももの言葉に耳を貸しつつ、殺奈は暴力的な数字が記載された書類に目を落とす。ぜんぜん脂汗が止まらない。平静な心を保つダムがいまにも決壊しそうだ。


「それじゃあ、また明日ね」


 その書類を渡してきたすももは、殺奈を一瞥したあと、すたすたと行ってしまった。とりあえず、立ち上がってすももに「お疲れさまでした」とねぎらいの言葉をかける。こちらに背中を向けたまま後ろ手を振るすもも。彼女はそのまま廊下の曲がり角を曲がった。


 そして、もう一度請求書に視線を移し、お腹が痛くなりそうな多額の請求額に頭を悩ませる。


 ……殺奈の借金返済生活は、まだまだ続きそうだ。

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魔法少女アサシン☆せつな @rock_book373

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