第5話日本最強の殺し屋、面接をがんばる

「吉野殺奈さん、あなたを採用します」


「……へっ?」


 蛇原市内の一等地にある小綺麗なオフィスビルの三階の多目的室。


 エアコンの効いた部屋の中で、借り物のスーツ姿の殺奈は、ぱりっとしたスーツをまとった金髪糸目の成人男性と面接していた。


 その糸目の男性の手元には、二日前に殺奈がこしらえた顔写真付きの履歴書がある。なけなしのお金で買った履歴書の用紙、顔写真、合わせて千二百円。あとボールペンも。これだけのお金を消費するのはマジでつらい。そのお金があればニンジンが三本も買えるのに。


 だが、そんなことよりも。


「さ……採用ですか? そんなあっさりと?」


「ええ。あなたは当社にふさわしい、と判断しました」


 殺奈は目の前にいる糸目の男性に告げられた採用通知に、目を白黒させあたふたとする。


 本日の面接に赴いた殺奈は、面接官であるこの糸目の男性と簡単な質疑応答を交わし合い、その日のうちに採用を言い渡された。


 いくらなんでも早すぎると思う。


 普通は何日も待たされる、と予想していただけに、まさかの電撃採用に少し混乱している。


 けど、採用されて一安心、と安堵している自分もいる。雇用してくれたこの面接官に恥をかかせてたまるか、と殺奈はあらためて気を引き締め直した。


「……ほな、あらためて自己紹介しましょか。魔法少女事務所マジカル☆プリズム社長、クリス=バルトーラや。吉野さん、今後とも蛇原市のひとたちを守るために粉骨砕身がんばってな」


 チャンネルが切り替わるようにクリス社長の話し口調が変化した。その身にただよう雰囲気も、関西弁同様にマイルドになった。


「あっ、はい! 一生懸命ターゲットのタマを取りますので、よろしくお願いします!」


 殺奈はすかさず席から立ち上がり、ぺこりと礼儀正しくお辞儀する。


「うんうん、その意気や良し」


 殺奈のお辞儀を快く受け取ってくれたクリス社長は、頭を上下に動かしてグッジョブのジェスチャーを送った。


 そのあと、殺奈はクリス社長に誓約書にサインするよう指示され、さらさらと一筆書き記した。魔法少女の業務は危険を伴うらしいので、サインが義務付けられているそうだ。


 そして、続けて指示された場所に向かうため、殺奈は一通りの礼儀作法をしてから出て行こうとする。


 クリス社長がいまさっき殺奈の指導役を手配してくれたので、このあとすぐに研修を受ける次第だ。


「失礼します」


 退室しようとする殺奈の後ろ姿に対し、クリス社長は薄く目を見開いてから、


「……期待しとるでー、元殺し屋の姪っ子ちゃん」


 と、ギリギリ聞こえない声音で囁いた。

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