第4話日本最強の殺し屋、魔法少女の仕事を見つける

 そんなこんなで夕飯時が訪れた。


 本日のメニューは、白飯、具なしの味噌汁、そしてスズメバチの素揚げ。

 揚げ油はこのまま捨てるのはもったいないので、このあと油こし作戦を決行する予定だ。


「いただきます」


「いただきます」


 一緒に両手を打ち鳴らす、小さなちゃぶ台を挟んだ姉妹水入らずの食事。


 殺奈は皿に三匹盛られた原型そのままのスズメバチを、箸で摘んで口の中に入れ、バリボリと咀嚼する。揚げたスズメバチの香ばしい風味がたまらない。すかさず白飯も口の中に放り込んで一緒に噛み砕けば、得も言われぬ至福が殺奈を温かく満たす。


 食費を節約するために始めた昆虫食だが、意外と美味しいのでいまでも続けている。


 いちおう会ったこともない伯父から毎月輸送される仕送りがあるけど、申し訳なく思ってしまい手をつけずにすべて保管している。


 と、


「……お姉ちゃん」


 不意に葵が箸をちゃぶ台に置き、ちゃぶ台の下から薄い冊子を両手で持ち上げる。よく見れば、それはこの近辺で広く知れ渡っている無料の求人誌だ。


「お姉ちゃん、今日お掃除のお仕事辞めさせられちゃったんでしょ? お父さんの借金はまだたくさんあるから、この機会にわたしもお仕事を始めてみようかな、って」


 葵は神妙な面持ちで窺いながら、殺奈に働く意思を示してくる。


 殺奈が務めていた殺し屋のアルバイトは、表向き普通の清掃業者で通してある。


 なので、当然葵は殺奈の裏の仕事を知らない。まあ、殺奈が掃除していたのはただのゴミじゃなくて、社会を腐らせる生ゴミなんだが。


 それはともかく。


「……葵、ありがとう。うちの家計の心配をしてくれて。……だけど」


 そう口にしつつ、殺奈は求人誌をひょいっとひったくる。


「あっ!」


「だけど、葵も働く必要はないかな」


「……でも、お姉ちゃんだけ働かせるのは悪いよ。ただでさえわたしは専門学校に通わせてもらっている穀潰しなのに……」


「そんなことは気にしないで、葵は葵の勉強をがんばってほしいかな。ファッションデザイナーになりたいんでしょ?」


 その説得を真剣な表情で聞いている葵は、うん、と頷いた。


 殺奈の言う通り、葵は奨学金制度のあるファッション系の専門学校に在学していて、日夜勉強に勤しんでいる。ファッションデザイナーという夢を叶えるために、必死に切磋琢磨している。


 その夢を応援している殺奈は、専門学校用の貯金を、借金の返済と並行してコツコツと蓄え続けている。


 ……葵の夢のためなら、たとえこの手が血で穢れても構わない。家族を傷つける障害はすべてぶっ殺す。


 葵の勉強の妨げになっている借金の存在は、葵が専門学校を卒業するまでに必ず返済してみせる。


 家族を守りたい。その信念があるからこそ、力が無限に湧いてくるのだ。


 ゆえに殺奈は、


「その代わり、もし葵の夢が叶ったら、最初に私の服を作ってね」


 妹の自立を促すため、その背中をそっと押してやる。


「……わかった」


「よし、それじゃあこの話はこれで終わり。食事に戻ろうか」


 そうして殺奈は、葵から取り上げた求人誌を床に置こうとする。


 と、


「おっと」


 殺奈の手から滑って落ちた求人誌は、畳の上に衝突し、紙の軽やかな音を鳴らす。


 そして、落ちた衝撃でページがご開帳した。そのページに視線を落とせば、デカデカと銘打たれたとある求人募集が視界に入った。


『魔法少女事務所マジカル☆プリズム。求人募集、正社員の魔法少女。仕事の内容、羽蟲人の退治。月給五十万円、女性限定、特別手当あり、殉職手当あり、勤務時間応相談、etc……。自衛隊経験のある方、大歓迎!』


「これだっ!」


 突然の大声にびっくりした葵をよそに、殺奈はひとり歓喜する。

 自分に向いてそうな仕事を見つけた、と。

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