第102話 梅の花のダーチャ#1
「へぇ、
ブルジョワジぃ~~😙」
「自宅とて借り住まいなんじゃ、そんな面倒なモン持つわけなかろうが。
都度払いの貸別荘だよ。」
クリプトメリアとしては、持たざる生活がモットー、というよりも、何かを所有するという発想がない。
そうしようと思えば、現在よりももっと広い家を購入するのに十分なだけの蓄えはあるのだが、
そしてマグノリアに戻って一時期はそんな構想を持った記憶もあるが、実現に向けて踏み出すのはやはり億劫なのだった。
家族が増え、彼らの未来について考えるべき時期に差し掛かってもなお、それは変わらなかった。
父娘が入店して程なくアマリリスが、やや遅れてヘリアンサスが合流した、小料理屋「燕雀亭」で、
クリプトメリアは、マグノリア開基記念日と繋がって連休となる次の週末に、一家で郊外のダーチャに宿泊するという計画を披露した。
勢い、今宵はクリプトメリアが、よき家長でありたい晩なのだった。
「ファーベルも勉強ばっかりしとらんと、たまには羽を伸ばさにゃいかん。
君らもどうだね、大したこともない田舎だが、まぁ悪くない所だよ。
そうそう、ちょうど今時分は
アマリリスは未だ知らない、東洋の植物だ。
どんなだろう、アーモンドの果樹園みたいな感じかな。
「イイですね!
行きたい行きたい、花見しながらピクニックとかしたい!」
「よし決まりだ、宿の手配をしておくよ。
君たちも準備を・・・と言っても手ぶらで良いような所だがね。」
それからも、一杯機嫌のクリプトメリアはアマリリスを相手に、
トワトワトに行く前の、ファーベルがまだ幼かった頃に、父娘で何度か(といってもほんの2、3回)同じダーチャに逗留した時の思い出話、
ダーチャに隣接する遊園地でファーベルとはぐれ、肝を冷やしたこと、
夜、野外音楽堂で催される演劇を、ファーベルが怖がって泣き出してしまったこと、、などを楽しそうに語った。
ヘリアンサスは、現在からは意外とも思える、ファーベルの子どもらしい逸話を微笑ましく聞くとともに、
この不思議な父娘にもそういう、父と娘にあって然るべき交流の一面があるのだということを知って、なんだかホッとした。
一方で、注意深く聞いていても、思い出話にファーベルの母は登場しない。
その当時からいなかったのか、クリプトメリアが言及を避けているのかは、判断が難しかった。
当のファーベルは、いつも通りにこにこ、時折照れくさそうな様子を見せながら、
どこか、その思い出の地を再訪することには気乗りでないように、ヘリアンサスには映った。
しかし、表立って反対するつもりもないようだった。
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