第99話 イイズナくんふたたび#1

それは、職員ひしめくフロアにあって飛び抜けて若い、

実際まだ子どもと呼びうる年齢の少年だった。


皆が皆、忙しなく立ち働く中で、少年はその機敏さのために、

まるで彼ひとりがそこら中を駆けずり回っていて、他の者の動作は水を掻くように緩慢に見え、

他の者が低い声でボソボソつぶやく中、彼の受け答えする声のみが鋭く響くように聞こえるのだった。


「イイズナ君、例の稟議もう通ったはずだから、あとで総務部行ってきて。」「はい!」


「イイズナ君、昨日お願いした企画書、どうなったかな?」「はい!出来てます、こちらに!」


「イイズナくぅん、この申請否認されちゃったよ、、どうしたらいいかなぁ?」「はい!ってイヤ知りませんよ、なんで僕に!?」


やはりそうだ、アマリリスの弟の、、確かヘリアンサス君。

州庁府こんなところで働いているのか、まだせいぜい15,6の歳だろうに。


ルピナスは記憶力は悪くないほうだが、

それにしても顔を合わせて高々数秒、一度聞いたきりの名前まで覚えていたのは、

我ながら・恥ずかしながら、その数秒に駆け巡った様々の、そして鮮烈な感情との連関のゆえだった。


だからヘリアンサス少年のほうは、自分のことなど記憶しては居るまいし、

まして忙しそうなところを呼び止めて、挨拶以上に話す用件などあるわけもない。

ルピナスは黙って立ち去るつもりで、コーヒーと雑談が尽きたところで相手ともども立ち上がった。

そこにちょうど、ヘリアンサスが通りかかった。


「あ、イイズナ君ちょうどよかった、ここ片しといて。」


「はい!・・・ってあれ?えっと、、ルピナスさん?でしたっけ。

こんにちは!どしたんすか州庁府こんなところで?」


「こっ、こんにちは。

仕事の打ち合わせでしてね、雇用統計関係の。」


「へぇ~~(x2)、

大学図書館って、そんな仕事もあるんですね、スゴイっす!

僕、ここ片したら休憩にするんで、一緒に昼飯どうですか??」


おっ、おう。


「そうですね、ご一緒しましょうか。」


「ありがとうございます!!

すぐ済ませるんで、ちょっとだけ待っててください!」


「おーぃ、イイズナくぅん、申請書書き直してみたんだけどさ、、」


「すんません、あとにしてくださーーい。」

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