第67話 彼の誠意

「そういやどうだったん、初体験の方は。

うまくできた?」


アマリリスの問いに、プリムローズははにかむような苦笑いを見せる。

はにかむような苦笑い、なのだが、どこかその問いを予期して待ち構えていたような気配があった。


「あ~~、姫ってば。

それ聞いちゃうんだ??」


ジュリアンの割込は、プリム嬢をその話題から庇うような格好だが、その実これ以上ないくらいニヤニヤしている。


「ひーん。」


悲愴を装ったプリムのウソ泣きも白々しい。

要するに、二人とも話したくて仕方がないのだ。


「入れらんなかった系?」


「先に出ちゃった系?」


アマリリスが投げ込んだ餌に、狙い過たず、ごちそうに群がる池の鯉のように、

いろいろと余計な耳学問を仕入れてきたらしい娘たちが食いついてくる。


「んーーと、

そういうことじゃなくて、それ以前て言うか。。。」



まず、デートは予定通り、

8時を指すボゴクリュチ駅大時計前の待ちあわせにはじまり、レストラン、ダンスホールと巡って11時に店を出たときには、当然汽車はなかった。


ホテルを取ってある、と彼は言う。

こうなることを承知の上で今日を迎えたプリムの心に迷いはなかった。

胸を高鳴らせていたのは、その後の展開への期待と、期待と一体の不安であったに過ぎない。


まな板の上の鯉、いや、狩人の懐に飛び込んだ鳩?

とにかくそんな心持ちでチェックインした部屋で、彼は思いもよらないことを言い出した。


曰く、僕はプリムのことを大事に思っており、決して淫らな欲望を目的に交際しているわけではない。

そのことを証明するために、今日は二人で泊まるが、指一本触れないつもりだ。

僕の誠意を見ていてほしい。


そしてその言葉通り、朝まで、指一本触れなかったと言うわけである。


「・・・バカ?

バカなのそいつ?」


「だったら泊まんな💢」


「イタい、っていうかイタい通り越して腹立つ、

何なのそのカン違い」


「なんてゆうか、空き巣に入ったけど盗むのはあなたの心です、とかほざく居直り強盗的な?」


「アリバイ工作も大変だったのにねーー、

あたしの家に泊まってる事にして。」


ジュリアンも苦笑いする。


「この日のために奮発した下着だったんだけどな。。。

2回もお風呂入って、お肌ももちもちプルプルだったのに。」


結局まだ処女のままなのに、プリムもなかなかきわどい事を言う。


一同総ブーイングのムードの中、アマリリスは頬杖をついて考え込んでしまった。

そして言った。


うらやましいかも。」


「え?」


「その人は間違ってないわ。

本当にプリムのことが好きで大切なのよ。


エッチするったって、やること自体は入れて出してそれだけよ。

でも大切なのは心でしょ。


大切な人には自分の心を分かってほしいわ。

逆に大切な相手じゃなかったら、心なんて見せないわ、重いもの。

彼はプリムに分かってほしいのよ。

なにもヤるだけが唯一の方法じゃないわ。


あたしだったら、そんな事されたらすごく嬉しい。

プリムは幸せよ。」


またしても、自分たちには理解が難しいアマリリスのコメントに、騒いでいた一同はしんとなった。

アマリリスがしゃべりはじめてからじっと聞いていたプリムローズが言った。


「実はあたしも、そんな気がしてたんだ。

ありがとう、姫。」

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