第61話 悪魔同盟の童女#2
”
ファーベルは今度こそ呆気にとられた。
せっ・・・てそんな言葉が、このあいだ初等学校に入学したばかりの児童の口から飛び出してくるもの驚きなら、
こうも無遠慮に、そんな質問をぶつけてくる意図を測りかねていた。
わたしをからかっているの??
だったら、そういう言葉は使わないようにしようね、なり、
ひとにそんなことを訊くのは失礼ですよ、なり、注意したほうがいいのかな。
でも、この2人には悪気がなくて、純粋な(?)興味から知りたがっているのかもしれないし。
それなら、頭ごなしにはねつけてしまうのはよくないよね。。
「どうなんですか、こたえてください」
「いっ、いいえ。していません。」
追及にうろたえて、考えがまとまる前に答えてしまった。
「ほんとうですか
だったら、なんでいま
「ほっ、本当です。
ちょっとびっくりする質問だったから。」
「「ほんとうのほんとうですか?」」
「はい。本当の本当です。」
2人は顔を見合わせてにまりと笑った。
そして、今までとは打って変わった調子で、
「よかったぁ。
じゃぁ、ファベちゃん先生も、”メルちゃん先生にあくまを
「・・・はい?」
「メルちゃん先生はせっくすしたんだよ、だから赤ちゃんができたの。
ゆるせないよね、あたしたちの先生なのに。」
メルちゃん先生、2人の担任のアルメリア教師。
優しく朗らかでてきぱきしていて、ファーベルが、こういう先生になりたいな、と思って見ていた
妊娠5ヶ月目とのことで、お腹が目立つようになってきていた。
「だからばつとして、あたしたちで先生にあくまを降ろすことにしたの。」
「先生はにんげんじゃなくてあくまの子をうむの、
ゴキブリみたいなうじうじで、イモムシみたいなぶよぶよの。」
「ほんとうにしんらいできるひとしかなかまにいれないから、
でも、ファベちゃん先生もなかまにいれてあげる。」
「はいこれ、
「・・・・・」
数秒後、ファーベルは自分が、この世ならぬもの、それこそ悪魔を見る目で2人を見つめていたことに気づき、慌てて視線を逸らせた。
右の子が差し出した手には、有名な秘密結社のシンボルマークを模したらしい、稚拙な黒い折り紙が載せられていた。
その後ほどなくして2人の迎え、驢馬に牽かせた荷車がやってきた。
片方の子の父親だという農夫は、迎えが遅くなったことをしきりに詫びながら、2人のことを話してくれた。
聞けば、広大な畑の中の2軒隣同士で、学校への送り迎えを、それぞれの親が交代でこなしているとのこと。
遊ぶのも、通学もいつも一緒という2人はしょげかえった様子で、俯いたまま、
夕暮れと宵闇の半ばする農道を、荷車に乗せられて去っていった。
案の定、翌日、実習の最終日もうなだれたままで、児童が開いてくれたお別れ会でも、ファーベルと目を合わそうとしなかった。
”あくまを降ろす同盟”に招待された時、ファーベルは散々考えあぐね、
しどろもどろに2人に説いたのだ。
ありがとう、仲間に入れてくれるなら、先生嬉しい。
でも、悪魔を降ろすのはやめてあげてくれる?
だって、人間になるはずだったのに、悪魔になっちゃったら、
人間とはお友だちになれなくて、その子はひとりぼっちになっちゃう。
そんなの、かわいそうじゃない?
ファーベルの「言葉」を、2人がどのように受け取ったかはわからない。
けれどそこが問題じゃない。
2人はまた、「叱られて」落ち込んだわけじゃない、事実ファーベルは叱っていない。
”ほんとうにしんらいできるひと”2人はそうまで言ってくれていた。
彼女たちは、悲しかったのだ。
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