第55話 ”誕生日祝い”#2

『ねぇ・・・ヘリアンサス君?』


取皿の上の腸詰めを、フォークの先で突き回しながらアマリリスは尋ねた。


『何?

改まっちゃって、気持ち悪っ。』


『あんたさ、

もしファーベルが、あんたの”お誕生日祝い”したげる、

って言ったら、どんなこと期待する?』


『もし、ってかこの前してくれたでしょ。

忘れた?』


『ほぇ?』


ヘリアンサスの誕生日は11月21日。

その日、ファーベルは腕によりをかけ、クリームとフルーツをふんだんに使ったケーキと、

アイスヴァイン、香草の詰め物をした鶏の丸焼きまで作ってくれた。


『あ~、なんかやけに晩ごはん豪華だな、って思ってたら。

あれあんたの誕生日だったの。』


なるほど手料理か。

たしかに、胃袋から掴みにいくというのは古来から定番の手管ではある。


けれどそれは、一緒に住んでいるからこそ出来ること。

”職場の同僚”に対して、少なくとも自然に使える手ではない。


『そりゃね、やって出来ないことじゃないけどさ・・・』


『え?ナニを??』


強引な手段も厭わない、狙った獲物は逃さないぜ的な肉食系女子なら、

手料理を振る舞うからと言って家に押しかける、これぞ一石二鳥だろっていう手口に出るのかも知れない。

でも、さすがにそれは一方的に距離を詰めすぎだろう、と思う時点であたしのやり方じゃない。


だとすると無難にプレゼントか。

でも男の人、”職場の同僚”にプレゼントって何あげたらいいんだろう?

無難に無難を重ねてネクタイとか?

とはいえあまり無難過ぎるのも、誕生日祝いするって言っちゃったから持ってきました感があるし、面白味に欠ける。


センスがあって、できればこのあたしに興味と好感を持ってもらえるもの。

相手ルピナスさんとの距離感を踏まえて、無難すぎず、奇抜に走らないプレゼント。。

う~~ん、わからん。


そういうところだぞ、ってことだろうか。女子力っていうやつ。

持って生まれた資質に恵まれ過ぎて、クイーン・ビーとしての扱いに慣れすぎて、あたしは自分を磨く努力を怠ってきた気もする。


これがトワトワトなら。

異界では誕生日を祝うなんて発想自体がないし、

仮に何かをプレゼントするにしても、せいぜいそこらで拾った綺麗な貝殻ぐらいしか選びようがなかった。


物に溢れ、多様な人間関係の坩堝るつぼである都会でこそ、

自分の口から出た言葉の解釈に頭を悩ませるっていう、なんなのこの状況。


『ホント、、難しいねぇ、人間は。』


『なに魔族みたいなこと言ってんのさ💢』


え、なんでそこでイラつくわけ??

そう鼻白んだアマリリスは、聞いたらいっそうドン引きしたであろう、常にヘリアンサスの心を占める不安のことなど知る由もなかった。


思いあぐねるうちに、ヘリアンサスが追加で注文した料理が運ばれてきた。

塩漬けキャベツの付け合せのついたアイスヴァイン。

あんたそれ好きね、そしてよく食べること。


『はぁ~。

ファーベルはいいなぁ。』


女子力に、ひとつ屋根の下シチュエーションに、遡ればパブロフシステムにまで恵まれている。


『え、どこが??

2泊3日でコドモの相手するとか、超たいへんそうじゃん。』


ヘリアンサスが見当違いな聞き返しをする。

(男の言うことなんて大概見当違いだけど。)


ファーベルは今、郊外の初等学校に、泊りがけの教育実習に行っている。

そういうわけで、2人はこうして夕飯は外食に出ているのだった。


そういや、ヘリアンとファーベルはどうなんだろう?そこんとこ。

同棲&胃袋はガッチリ掴まれているっていう仕上がりっぷりではあるが、

2人でデートしているような様子は見えない。

やっぱ、カッコはこれ仕事着でも、ヘリアンもまだコドモだしねぇ。


――いや、案外。

家で、2人っきりになるシチュだって結構あるはず。

そういう時の2人は、あたしが見ているのとは別の2人、ってことも??


『ねぇ・・・ヘリアンサス君?』


『だ・か・ら、何??』


『・・・、』


そういう時のファーベルはやっぱり、オンナの顔をしているの、、?



ってあたしのバカ、ふしだらっ。


ファーベルとどこまでいった??

なんて聞いたってこの弟が言うわけないし、

さすがに実の姉の口から、そんな生々しいこと聞くわけにはいかない。

あーあ、こういう時、魔族アマロックがいたら便利なんだけどな。


『・・・いえ、なんでもありません。。失礼しました。』


『ホントどうしたん?

今日、いつもに輪をかけて挙動不審だよ?』


輪をかけて、って、ひっど!


ヘリアンサス自身も言い方がひどかったと思ったかどうかは定かでないが、

しばらくしてから、言いにくそうに言葉を継いだ。


『まぁ、、お姉ちゃんはさ、そのままでいいと思うよ。

なんて言うか、ファーベルはファーベルなんだし。。』


え!?何なに、急になに言い出すのこの子??


『マグノリアなら、大抵の場所からは市電で帰ってこられるし、散歩も好きに行ったらいいさ。


こっちマグノリアに出てきてくれて嬉しかったよ、安心した。』


きっしょーー❢❢

叫びだしそうだったが、プルプルしながら堪え、空気を読んだ返事をした。


『うん、、こっちこそありがとう、相談に乗ってくれて。


さて、と。

食べ終わったことだし(ってさっきのアイスヴァイン、もう食べちゃったわけ?)

そろそろ行こうか。


――って、あれ?』

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