第48話 余熱#1

「ただいまーー」


6時半すぎ、ファーベルが夕食の支度をしていると、ヘリアンサスが帰ってきた。


「おかえりなさい。

あれ、どうしたの?早いね。」


早いも何も、役所の定時である6時にヴヌートリ=クルーガを出れば、ちょうど家につく時刻ではある。

しかしヘリアンサスに関して、そんなことは滅多にない。

そうあるべき時刻に帰ってきたりすると、体調でも悪いのかと心配になってしまう。


「違う違うw、元気。

なんか上席が”漫然弛緩勤務撲滅週間”だぁッ、とか言い出して今週は強制定時退勤だってさ。

ダラダラ仕事なんかしてないっつの、あんたが果てしないムチャ振りばっかするからでしょうが、

そんなことされても来週にしわ寄せが行くだけだと思うんですけどねぇ。」


その場にはいない誰かに向かって滔々と不服を論じ立てるヘリアンサスに苦笑いしながら、ファーベルはチャイを淹れる。


「はい、おつかれさま。

来週のシワヨセに向けて、今週はゆっくり休んでね。」


「おぅ、ありがと。いつも悪いねぇ。

あれ、姉ちゃんは?まだ帰ってないの?」


「うん。」


「遅くない??4時あがりだよねあの人。」


よく知ってるな、アマリリスが帰ってくる時間に居合わせたことなんて一度もないのに。


「たぶん、今日もどっか寄り道・・・あ、帰てきたね。」


「おかえりーー」


「・・・ただいま。」


アマリリスの様子に、ヘリアンサスとファーベルは顔を見合わせた。


「なんかあったん?」


「は・・・?

べっ、べつに何も?」


「顔赤いじゃん。

熱あるんじゃない??」


「ううん、暑いだけ。」


暑い、ってことはないんじゃないかなぁ。

あなた忘れてるみたいだけどもう12月、冬ですよ冬。


いよいよ熱があるんじゃないかと、ヘリアンサスは心配になる。


「大丈夫だから。

じゃ。。」


2人の視線から逃げるようにしてリビングを出て、階段で3階へと向かった。


そうか、もう冬なのか。

トワトワトのような極端なものではないが、マグノリアにも四季はあって、

これから年末にかけて、そして続く2ヶ月ほどは寒さの募る時期だった。

冬物の服、、オーバーコートも手に入れておいたほうがいいかな。


ボーッとしたまま自室に入り、ベッドに腰を下ろす。

数ヶ月前、身ひとつでマグノリアに出てきた時点でも、広々とは言えなかった小部屋は、

改めて見回すと、部屋そのものがウォークインクローゼットのような感になっていた。


ハンガーラック代わりの天井の梁から吊るした衣類が、部屋の奥行きの半分近くを占め、

ベッドに横になると、下半身は垂れ下がる衣服の裾の下に横たえる感じになる。

アマリリスが暮らすようになってから増えた家具が、机の横の小さな衣装箪笥で、下着や小物をしまっている。

ここにじきに、冬物の服が加わると。


トワトワトにいた時は、こういったものは何も持っていなかったし、

持ち物を増やすという考えも、その収納に思案するということももちろんなかった。

去年の今頃は。。。


アマリリスはため息をついて、衣類の下の空間に横たわった。

そのため息は、増殖する物品や部屋の窮屈さに向けられたものではなく、

もちろん、体調が悪いわけでもなかった。


しかし確かに、ある種の熱を帯びた症状ではあった。

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