第44話 まって#2
いつもよりもどきどきして息が苦しく、
アマロックの唇が離れたとき、抑えていた吐息が洩れた。
”何だか・・・今日のアマロックは、優しいな。”
今なら、思う存分甘えても許される気がする。
アマリリスはアマロックの膝に乗ったまま、彼の首に腕を回し、肩に頬を寄せた。そして、目は閉じてしまった。
そうしていると、胸の中に凝り固まっていたものが、ほぐれて消えていくようだ。
アマロックの手が、布地の上からアマリリスの乳房を撫でていた。
この赤いワンピースは、トワトワトに流れ着いた時にも着ていた、ウィスタリアの衣装だ。
袖口や裾に施された色鮮やかな刺繍はだいぶ擦りきれてしまったが、カラカシス特産の丈夫な綿で織られた布地は、まだまだ着れそうだ。
とはいえ、胸回りが窮屈になってきていた。
胸骨の上でアマロックの手が動いたと思うと、胸元を綴っている革紐の結び目がほどけた。
「はぁ・・・」
拘束から解放された心地よさに、アマリリスは肩を反らせた。
自然に緩んでいった革紐を、アマロックの指がすっかり抜き取ってしまった。
アマロックの肩に頬擦りをしていると、こんどは顎の上がった喉元に数本の指がやって来て、ブラウスのボタンを外しはじめた。
「やだぁ、アマロックのえっち。」
笑いながらその手を押さえようとした。
しかし、捕まえようとしたものはもっと下に移動していて、鎖骨のあたりを覆った彼女の手をすり抜けてしまった。
ここにきてようやく、アマリリスは目を開けた。
胸元までブラウスがはだけ、
やわらかい肌にふっと冷たい空気が触れた。
「アマロック?」
ようやくアマロックがふざけているわけではないことに気付き、声がうわずった。
「ねぇ、何してるの?」
「何って。」
アマロックは左手でブラウスとワンピースのボタンを交互に外しながら、
もう一方の手をアマリリスのスカートの中に差し入れた。
「ヤボなことを。」
クスクス笑うような声。
全身に油汗がどっと吹き出してきた。
おろおろしている間にも、上着のボタンは鳩尾の辺りまで外され、
別の生き物のような手が太腿を這い上がってくる。
「まって」
胸の合わせからこぼれでた乳房を衣服の中に押し込み、
じたばたと身をよじりながら懸命に訴えた。
「お願い、ちょっとだけ待って」
「いいよ。」
アマロックはスカートの中でアマリリスの臀を撫で回していた手を引き出し、彼女を離して立ち上がった。
急に解放されて、このままアマロックは立ち去ってしまうのかと、
アマリリスは泣き出しそうな顔になった。
けれどアマロックはアマリリスの背後にまわると、彼女の肩を抱え、
アマリリスを両膝の間に挟み込む格好で腰を下ろした。
まだ、心臓は早鐘のように鳴っていた。
心は幾筋にも発散してまとまらず、思考はばらばらに支離滅裂なことを主張し合った。
アマリリスの位置から、アマロックは見えなかった。
アマロックは何も言わない。
貝のように縮こまるアマリリスに少しも苛立ちや焦りもなく、ただ彼女を包み込む体温だけが温かい。
あれほど待望していたはずの
こんなみっともない、臆病な自分を、アマリリスは想像すらしなかった。
アマロックには分かっていたのだろうか。
魂を持たない魔族が、あたしの心、怯えも、迷いも、すべて含めて受け入れ、包み込んでくれている。
それが、アマロックに抱かれることの意味なら――
まだ震えは収まらなかったが、
アマリリスは自分の前で交差するアマロックの腕にそっと手を添え、体を捩って振り返った。
アマロックの金色の目をじっと見つめ、
そして初めて、彼女からキスをした。
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