第42話 ボゴクリュチP.M.8:00#2
ボゴクリュチは、マグノリア西方の田園地帯の中に位置する衛星都市のひとつ、
ということは、ここのところアマリリスが固執する、マグノリアの「外」に拓けた新しい街だった。
マグノリア自体も開基は約230年前と、さほど旧い都市というわけではないが、
ラフレシア極東の中核都市として、幾世代にもわたる発展と変遷の上に今日の姿が形作られてきたわけで、
都市の見えざる形成力に委ねるほかは、今や誰かが大きくその構造を変換することなどは出来ようもない。
一方でそういったしがらみを持たず、
当初からマグノリア住民の行楽地として、鉄道会社によってゼロから開発されたボゴクリュチは、
遊園地にダンスホール、斬新な趣向のレストランが建ち並び、
通りには平時からパレードが行き交い、最新式の電気街灯が夜も明々と街を照らし出す、街全体がテーマパークのような遊び場だった。
「へぇー。
あたし、行ったことないんだよね。
いいなプリム、楽しそう。」
「のんきねぇ。
”午後8時にボゴクリュチ駅で待ち合わせ”だよ、この意味分かる?」
「ん? 分かるわよ、ラフレシア語だもの。」
「そういうことじゃなくて!
あのね、マグノリアとボゴクリュチの間の列車は、9時で終わりなの。
デートが1時間で終わるわけないじゃない。
絶対、列車がなくなったから、泊まって行こう、っていうのを狙ってるよ。」
「なるほどぉ!
頭いいわね、その人。」
「どうするの、プリム。ヤられちゃうよ~」
「うーん、どうしよう。」
話題の中心・プリム嬢は、真剣に迷っているというより、ドキドキを楽しいでいる風だった。
こりゃ行くな、と踏んだ。
アマリリスはくすりと笑って、
「いいねぇ。
どうだったか、あとで教えてね。」
急にぱたりと静かになって、アマリリスはきょろきょろと皆の顔を見回した。
アマリリスにとっては何気ない一言に、同僚たちは自分たちには持ち合わせのない、格の違いのようなものを感じ取ったらしい。
「ひょっとして、もしかして、、
「は?何て??」
ウィスタリア時代、学校でのラフレシア語の成績はなかなか優秀で、今ではかなり砕けた表現も含め、自在にラフレシア語を操るアマリリスにも、こういう微妙なニュアンスの言い回しは難しい時もあった。
「セックスしたこと、あるの??」
「あー、、うん、まぁ。」
どよめきに、中央食堂2階フロア全体が震駭した。
離れた席にいた学生と、厨房の料理人までが、何事かと振り向いた。
「えーっ、意外。意外すぎる」
「すごくお嬢様かと思ってたのにぃーー、
何かショック」
「誰と? いつどこで?」
「今まで何人と? 」
「一度に何人と??」
「一人だけ。もう別れたわ。
って何よ、人をヤリマンみたいに。」
「うっわ、下品❤」
「ねぇ教えて、お願い。初めての時、どんなだった?」
プリムが急に真剣な調子で詰問してくる。
何とも微笑ましい浅ましさだ。
「えーー、、」
アマリリスは渋った。
恥ずかしい気持ちもあるが、それ以上に、彼女たちにアマロックのことを話すのは抵抗があった。
こちらが話そうとすることに傾聴し、それ以外のことに踏み込んでくることはない、
そういう安心感でいられるブルカニロ博士とは違い、当然にあらゆることを知りたがる少女たちを相手に、
アマロックのこと、それもいきなりソコからかよっていう核心に触れるのは、自分がどれくらい動揺するか読めなくて正直怖い。
しかしそれを言ったところで、彼女たちが引き下がるわけもない。
観念して話しはじめた。
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