第41話 ボゴクリュチP.M.8:00#1

マグノリア大学生の胃袋の友、「中央食堂」。

何やら、他よりも頭一つ抜き出た権威のようなものを感じさせる名称だが、実際は立地がキャンパスの中ほどにあるがゆえの「中央」であって、

学内に主なもので3つある学生食堂の中では2番目、もしくは3番めの規模である。


安さが取り柄、時間と懐事情に余裕のある時のジュリアンには敬遠されるが、

価格の制約の中でよく工夫された食材と調理法の食事を提供してくれる施設であり、

大学院からマグノリア大に編入してきた学生は、母校の学食よりも格段に美味いと口を揃える。


昼食時の混雑もけ、空席が目立つようになってきた午後1時半、

2階席一隅のテーブルに、参考調査課を中心とした仲良し女子7名が勢ぞろいしていた。


昼食は時間をずらして2,3人づつ摂るのが恒例の彼女たちが一堂に会するのは、

中央食堂のメニューを再評価するため、ではもちろんない。

上司たちに留守番を頼んで、というよりは有無を言わさず引き受けさせてまで時間を作った彼女たち、

有無を言う間もなく引っ張ってこられたアマリリスを除く6名には、

業後の集まりの時間まではとても待っていられない、極めて重大な事案があったのである。


名づけて、『第1回:プリムの第1回がボゴクリュチP.M.8:00なのか!?会議』


アマリリスが、都市の境界を見出そうと彷徨し、心療探査家と取りとめもない対話を続ける間に、

プリムローズと、以前話を聞いたときには「いいカンジ」のカレシ[候補]だった相手との関係は、

当時の重要議題だった「告白」という形を経ないまま[候補]が取れ、自他ともに認める男女交際の段階へと発展していた。


プリムがかつて待望し、与えられないことを悩みにすら感じていた『告白』への固執を、今ではすっかり捨て去っていることが、

アマリリスには予想外で、若干の当惑を感じた。

きっとアレかな、人間同士だから、言葉にしなくても心が通じ合う、ってことなのかしらね。


3人以上集まれば必然的にかしましいこの年代の女子の中では、

落ち着きがあるというよりは、基本的に他人に無関心であるために騒ぎ立てることの少ないアマリリスについで無感動な、

おっとりしていて、不安も不満も歓びもふんわりと伝わってくる癒し系のプリム嬢の心境の変化がどのようなものだったか、

(アマリリスにしては珍しく)興味を惹かれるところだったが、議事を進行する女子たちにとってそこは重要ではないようだ。


お互いに初めての恋人同士の2人は、出会いのきっかけであり、2人の共通の趣味である音楽ライブの帰り道を初回として、

恋人の証明、接吻キスも3回を数え、そろそろ、未だ見ぬその先の段階ステップが気になってくる。


そんな折、

おそらく朴訥な人柄なのだろう、カレシofプリムが、明日金曜日のデートの約束に取りつけたのは、

”ボゴクリュチ駅の改札で、午後8時に待ち合わせ”という短いものだった。


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