第40話 緑野に浮かぶ球体都市
”あらゆる透明な幽霊の複合体”
人間はみな、ありとあらゆる他者と結びついて、影響を及ぼしあっている。
それは、マグノリアに来てからのアマリリスが漠然と、言葉に表しがたい印象として持っていたものに、はじめてぴたりと一致する言葉だった。
トワトワトに唯一の”町”、オロクシュマ・トワトワトに一緒に行ったとき、
人間にも
マグノリアのような都会に来れば
この、都市によって色々なことを要求されている感覚。
自分が何者であるか、美人キャリアウーマンか、役所勤めの下っ端か、萌え系女学生か、といった
自分に合った店でTPOをわきまえた服を選ぶことを求められ、
初デートは斯くあるべしと暗黙のうちに決められている(だから誰とデートしても似たり寄ったりになる)。
散歩は近場で済ますものであって、都市の縁辺がどこにあるのかを確かめようとしてはならない。
マグノリアには明らかに内と外がある、つまり、ヴァザプルドはまだ内側だったけれど、
あれからもう何時間か何十時間か知らないが、ひたすら歩き続けていたら、ここはもうマグノリアではないと断言できる場所に出たはずだ。
それなのに
実際には違っていても、古代人は、世界が端っこで滝になっている円盤だと信じていたように、
人間の観念の中のマグノリアは、終端のない球体として、都市の外側をなすみどりの田園の上に浮かんでいるのかもしれない。
球体の表面に住まう無数の人間は、個々の思惑や願望に沿って活動しながら、決して無秩序なバラバラではなく、
細部から全体に至る階層ごとに一定の方向性を持って、セレブリャノエ=ザズベジエ、ヴァザプルド、高級住宅街や高級じゃない住宅街、ムータン人街といった都市の構造を作り上げている。
それらの方向性を与える力は、どこから来るものなのだろう?
言うまでもなく、都市は人間の被造物に違いない。
ところが少し視点を変えてみると、都市自身が意志を持って、そこに住まう人間に自らを形作らせ、
その時々のあるべき姿を求めて、永遠の模索を続けているように見ることも可能に思えてくる。
どこかそら恐ろしいような感覚がするとともに、
アマリリスは、どういうわけか自分だけは、係留索によって都市の球体と接続しつつも、球体の表面から離れた中空に浮かんでいるように思えるのだった。
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