第32話 都市の彷徨#1

土曜日、いつもは早いファーベルの朝も、少しだけゆっくり、のんびり。

平日の反動でもっと大胆に寝坊したところで、咎める人など誰あろうはずもないのだが、

少しだけ、にとどめるのは、そのほうが気持ちよく休日の憩いを楽しめるからだった。


ヘリアンサスとは昨日も顔を合わせずじまいで、何時に帰ってきたのかもわからない。

さぞお疲れでしょうね、好きなだけ寝させてあげよう。

天気もいいし、お昼はお弁当持って、マグノリア城砦公園でピクニックとかいいかな。


そんなことを考えていたところに、3階からの階段を慌ただしく降りてくる足音がして、

ファーベルの表情はパッと明るくなり、その姿を見て目を見開いた。


「やっべー、寝過ごしちった。」


「おはよう、ヘリアン君。

え、今日もお仕事なの??」


慌てて着たのか、シャツのボタンが胸までしか止まってなかったり、髪型も若干ワイルドだが、ともあれ出勤日の服装をしている。


「うーーん、仕事ってか朝からサビ残?

この間できた雇用助成制度の勉強会。

そんなの休日にやらないでくださいよ、って言ったら、平日にそんなヒマあるわけないだろう、だってさ。

全くどんなブラック役所なんだってねぇw」


口ぶりとは裏腹に、その表情はにこやかで、実に溌溂としている。

彼は嬉しいのだ。

激務の連日に翻弄されることも、休日に無給で駆り出されることも。

ファーベルには想像することしかできない職場というものが、すっかり彼を捉えて離さないのだった。


リンゴ1個に牛乳を1杯、慌ただしく噛み砕き飲み干してヘリアンサスは席を立った。

起きてきたら温かいのを食べさせてあげようと思っていたトーストもベーコンエッグも、出せずじまいだった。


「よっしゃ、ダッシュすればギリ間に合うな。

ってあれ、姉ちゃんは?」


流しにコップを下げに行って、2人分の食器が下げてあるのに気づいた。


「でかけたよ。」


「どこに?」


「お散歩。

ぶらり・マグノリア、だって。」


「は?

マグノリア都会に来てまで放浪してんのあの人??

大丈夫かな。。。」


そんなことを言って、ダッシュ、とか言ってた割にはぐずぐずしている。

その心配にファーベルは目を丸くした。


「だぁいじょぶでしょ、幻力マーヤーの森じゃないんだから。

道に迷ったって、誰かに聞けば教えてくれるし。」


「いやいや、マグノリアにも結構アブない場所とかあるんですよ、ファーベルさん?」


結局5分あまり貴重な時間をつぶして、やべー、ダッシュしてもギリアウトかも、

と言いながら駆け出していった。


やれやれ、忙しいわねぇ。。。

世間から取り残された隠居婦人のように呟いて、ひとり食後のチャイを啜る。


実際、課題は昨日のうちに済ませてしまったし、予習は授業のある前日にすることにしているので、今日はこれといってやることがない。

ひとりでピクニック、って気分じゃないし、お父さんとは尚更w


そんなファーベルの1日がはじまる。


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