第31話 生と死の感覚#2

ブルカニロの問いに、アマリリスは考え込んだ。


「アマロックが、生きているものと、死んでいるものとの区別がついていなかった、とは思わないです。

でも、おっしゃりたい事、分かります。


なんて言うか、いろんなものが欠落しているみたいな人で・・・

『生きる』『死ぬ』、それから『愛する』。

言葉は知っていたと思うんですよ。

でもどこか、本で読んで知った知識みたいというか。


あたしにもね、優しいんです。

パブロフシステムで強制されてたと言う、ファーベルにはもっと。


でもその優しさも、優しさの使い方を知って、使っているというか。


きっとアマロックの心の中にあたしはいない。

あたしだけじゃなくて。

彼の心には、他人ひとを入れておく入れ物はないんだ、って、、

それは分かっていました。」


「なるほど。」


ブルカニロ博士は満足そうに頷いた。


他人ひとを入れておく入れ物ですか。

面白い考え方だ。


人間が、誰かの記憶であったり存在の感覚、

つまりは他者の魂そのものを、お互いに収容し合う容器。

それもまた、魂の捉えかたのひとつかもしれませんね。


自分の入れ物に誰かの魂が入っている時には、心が満たされ、生の実感を得る。

誰の魂も入っていない空っぽの器が死の感覚であり、

また、入れ物ごと中の魂を失うことを意味するから、人は死を恐れるのだと。」


アマリリスは、自分の稚拙な表現をこの学者が感心して繰り返すことに、何だかむずがゆいような気持になった。


「でもね、あたしはそんなアマロックが好きなんです。

魔族には魂がないんですよね?

だとしたら、あたしの魂には、アマロックの何が入っているんでしょう??」


「なるほど。難題ですな。」


ブルカニロ博士はそう言って愉快そうに笑った。

それから真面目な顔になって、


「愛しているのに、何故あなたは彼の元を離れて人間の世界に戻って来たのですか?

というのも今、現在形を使われましたのでね。」


経緯を問うことはしないブルカニロ博士にしては珍しい、詮索のようにも聞こえた。

しかしアマリリスには分かっていた。

ブルカニロは、経緯ではなく思いを、心のありようを問うているのだと。

それだけに、こたえには長い時間がかかった。


「わかりません。

きっと、離れていないんだと思います。」

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