第22話 呼吸をするようにモテる女
本人に言わせれば当然でしょう、ということになるのだが、
そしてそれを認めることに同僚女子たちも否はなかったが、アマリリスはとにかくモテた。
図書館の男性職員、利用者の学生も教職員も、
街に出ればカフェの店員も、服飾店の店員も、通りすがりの某まで、
男はこぞって彼女の
虜になるだけで満足しない手合は、彼女の気を惹こうとあの手この手のモーションをかけてくる。
その日の服や持ち物を切り口に世間話に持ち込み、最近オープンしたどこそこの店に誘おうとする同僚。
探しものの相談をカウンターではなくアマリリスに持ちかけてきて、脈絡もなく映画に誘おうとする学生。
街に出れば、商品の売り込みを口実に、アマリリスのファッションセンスへの称賛を口実に、誘ってくる店員。
街角で矢継ぎ早に質問を連発し、まずはこちらの反応を引き出そうとする通りすがり。
それらの試みをアマリリスは一顧の間もなく、文字通り片っ端から袖にしていった。
格好がダサいとか顔がブサいとか、逆にあまり遊び慣れしているようなのは論外として、
見てくれの良い、頭もある程度まともで話の面白そうな相手も少なからずいたのだが、彼らもまたアマリリスの判断において特段の地位を得ることはなかった。
たいていの男は、それですごすごと引き下がっていく。
とはいえ中には、すげない仕打ちに憤慨し、是が非でも彼女を口説き落とそうと躍起になる不届き者も出てくる。
尤も、そんな連中を歯牙に掛けるようなアマリリスではなかった。
「あれはケッサクだったねぇ、考査局の局長さん。」
「ケッサクどころか、こっちはヒヤヒヤもんよ、相手局長だよ?」
おっとりにして肝の据わったプリム嬢のコメントに、彼女の仲良し、
一見しっかり者に見えて、いつもプリムに振り回されているジュリアンが反駁する。
「・・・誰だっけ、それ?」
当のアマリリスはきょとんとして、アイスティーを啜っている。
「覚えてないとかw!
たしかに
彼女たちとは別の部署の部門長で、館内ではやたらと偉そうにしている40がらみの男が、
年甲斐もなく、そして妻帯者でありながら不届きにもアマリリスにいたくご執心で、
何かと仕事にかこつけてはアマリリスを呼び出し、既に彼女が自分の愛人でもあるかのように、どこそこへの同伴を要求してくる。
「お断りします。」
いつもならそこまで冷たいフリ方はしない、
すまなそうな微笑みを浮かべて、上目がちにごめんなさい♡、ぐらいは言うアマリリスだったが、
この時はカチンときて、愛想笑いの一つもなく撥ねつけた。
40がらみは怯む様子もなく、局長であるワタシの要請を差し置いて優先すべき業務があるとでも言うのかね、
理由を説明したまえ、そして本日でなければいつなら応じられるのか明確にしたまえ、なんて言ってくるものだから、
「あのね、そういうことじゃなくて。
何であれアナタとはご一緒したくありません。」
とピシャリと言い切ってやったら、怒りで蒼白になって黙り込んでしまった。
こういう男にはありがちなことだが、自らの不逞への当然の代償を屈辱と受け取り、
立場を利用して色々と陰湿で姑息な報復を計画していたようだが、
相手が高名な教授の身内であると知って顔色を失い、以後はアマリリスの世界には存在しないも同然となった。
「ああいうのは論外にしてもよ、
ホント、理想高いよね
「たとえば超イケメン!めっちゃ頭良くて、お金持ちの青年実業家!
とかなら考えてもいいって感じ?」
「・・・そういうんじゃないんだけどなぁ。」
こんなに美少女なんだもの、モテるのは正義、チヤホヤされるのも必然。
けれどそこまでであって、自分の関心を買おうと言い寄ってくる男に
それは拒絶というよりは無関心、気を引くとか関心を買うとか、自分の心を動かそうと働きかけてくる他者の思惑に応じるという発想がないのだった。
逆に彼女の側からこの人イイな、と思う相手が現れるとしたらそれは、そうやって自分に声をかけてきたりしない男だった。
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