第19話 異質性の聴講生#1

夕方4時の終業時刻を迎え、片付けをして図書館を出るアマリリスを待ってくれていたように、

4時半から、その日最終の時間枠の講義がはじまる。

アマリリスは何食わぬ顔で、講堂の席に座っていた。


大胆だが小心でもあるアマリリスは、最初、見つかったら怒鳴られてつまみ出されるかとびくびくしていたが、全く心配する必要のないことがすぐ分かった。

学生のみならず教官の目にもアマリリスは異質に映っただろうが、どの教官も彼女に気づいても、ちょっと不思議そうな顔をする程度で何も言わず、

そもそも教科書と黒板にかかりきりで、聴講者など見向きもしない教官も多かった。


3年前の災厄の年、アマリリスは次の春で学校を卒業するという年齢だった。

基礎教育を終えたウィスタリアの娘は、大概すぐに結婚し、夫と、子供たちに囲まれた暮らしに入る。

この大学にはアマリリスよりもっと年上の学生が多かったが、故郷でなら、彼女はもう結婚していていい年齢だった。


だがアマリリスは本当は、大学に行きたかったのだ。

家庭に入ることは、それはそれで幸せな生活だろうとは思っていたが、

そんな風にして、誰かの持ち物のようになってしまうのは嫌だった。


その後の波瀾万丈の経験があり、アマロックという(想定外に特殊ではあったが)伴侶を得、失った今では、その考えもだいぶ変わってきていたが、

こういう形でも夢の一部が叶ったことを、アマリリスは喜んでいた。


大学に行きたいという希望を、まだ平和だった頃、アマリリスは父に話したことがある。

保守的だが、娘には甘い父は、どこまで本気に受け取っていたかは別として、彼女の話を聞き、励ましてくれた。


階段になった講堂の片隅に座り、本物の大学生のように授業を受けながら、アマリリスはその時のことを思い出していた。

鮮やかな色の絨毯のうえ、丸い座布団に座り、愛しげに微笑みながら、うなずいている父。


周りに気づかれないように、アマリリスはそっと涙を拭った。

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