第18話 ・・・誰?
4講目の講義が終わり、90分の座学に耐え抜いた学生たちが思い思いに、伸びをしたり欠伸したりしながら教室を出てくる。
と、やおら廊下の脇に寄って道を譲る。
通り過ぎるものを、まるで異世界からの転生者を仰ぐような眼差しで見送る。
巨大帝国ラフレシア有数の高等教育機関、マグノリア大学に入学を認められた彼らは決して、
飛び抜けた
むしろそういう手合は少数派であって、大半は講義の難解さに絶望し、絶望を級友と共有して安心し、
安心に油断して遊興にうつつを抜かし、
各々に多様な個性もある彼ら彼女らを仮に学外に放出し、同年代の若者と混淆したとしても、
”いかにも”な少数派は別として、集団の中にあってさほど目を引くことはなかっただろう。
しかしその観測は、逆向きの関係では成立しない。
年に一度、広く学外からの来訪者を招いて催される大学祭などで顕著であり、
全員を検出しているかは不明であるものの、”少なくとも”彼女は本学の生徒ではない、と確信を持って判別される場面があるものだ。
ヒールを鳴らす音も軽やかに、初めて文明に接した未開人のような視線のベクトル場を撹拌しながら、アマリリスは颯爽と通り過ぎていった。
”・・・誰?”
”すっげカワイイー、モデルみたいじゃね?”
”〇〇女子大の子ではあるまいか?”
”君、声をかけてみたまえよ。”
”せっ、拙者はその、心の準備が未完にして。。”
なんだかな、むくつけきモブどもめ。
超絶美少女のお通りに、ひそひそ話だけで結局スルーかよ。
一体全体、何をしにこの世に生まれてきたんだか。
ま、追っ払う手間が省けてあたしはラクだけどさっ。
アマリリスはなおも未練がましく自分に集まる視線を意識して、
ふっくらとしたバラ色の唇に人差し指を添える仕草を見せながら、掲示板に張り出されたシラバスを見上げた。
・・・今日はこれにしようかな、
『熱帯域極相林における動植物の相互関係』
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