第15話 旅の途中の図書館にて

マグノリアにやってきて2ヶ月。

新しい生活への、アマリリスの適応は早かった。


適応は早かった一方、どこか慣れない、

この都市まちは自分の住まう処ではなく、旅の途中に逗留しているだけだ、

という感覚はいつまでも消えなかったが、

ともあれ都市に合わせて生活を変えていくことに抵抗はなく、それ自体がたのしみでもあった。


職場の図書館は、ラフレシア極東州最高学府の情報集積機関とあって、

建物も巨大でものものしければ、組織の規模も相当なものだった。


図書館のお仕事っていったら、本を並べておいて、借りに来る人が来たら貸して、

返しに来たら受け取って、本棚に戻して、ぐらいだろうから、大してやることなさそう、、、

と思っていたアマリリスはまず、就業初日の挨拶回りで紹介された部署の数に目を剥いた。


館長室、副館長室、

総務局総務課、同局企画課、同局人事課、同局会計課購買係、同局同課出納係、

調査考査局公共図書館渉外室、同局教育機関渉外室、同局他大学附属図書館渉外室、同局行政機関渉外室、

書誌収集管理局調整課、同局国内資料課、同局外国資料課、同局索引管理課、、、


これでやっと3分の1ぐらい。

最後の方はお辞儀のし過ぎで目がまわる始末だった。


アマリリスが所属することになったのは、利用者、つまり学内の教職員や学生からの問い合わせを受けて、

必要とする情報や、その情報の入手方法について回答する業務を主とする部署だった。

たとえば、”○○という薬剤の△△病への治療効果について研究した論文はあるか”という問い合わせに対し、

”□□という雑誌の何年何月号に掲載されている”という回答を与える仕事である。


より直接的な、□□という雑誌の何月号に掲載された、○○に関する研究の論文著者を教えて欲しい、という問い合わせや、

もっと漠然とした、こんど始めようとしている、△△の実験に役立ちそうな参考書を2,3見繕ってほしい、という依頼もある。


各々の問い合わせ・依頼への対応は、有資格者の司書が中心となって行い、

アマリリスたちアシスタントはその指示を受けて、索引を調べたり、書庫に資料を取りに行ったり、問い合わせの回答を送ったり、

目当ての資料が学内に在庫していない場合に、他大学の図書館から取り寄せるべく担当部署に依頼に行ったり、

購入する場合には購入伺いを書いて担当部署に持っていったり、その他諸々の雑用を行う。

そういうアシスタントが、アマリリスと同年代の女性職員を中心に5人いた。


貸出カウンターで図書カードを記入し、返却は何月何日までです、、

返却ありがとうございます、、

みたいなやりとりを延々と繰り返す自分をイメージしていたアマリリスには、思いもよらない業務だった。


なお、諸々の雑用の中には、今手が離せないので、見繕った書籍をどこそこまで持ってきてほしい、

という横着な依頼への対応も含まれる。

依頼者の中に、これまでに2度、生体旋律研究所・クリプトメリア教授の名前があるのを見かけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る