第14話 トラネコの、、

きちんと4つに畳まれたハンカチは、トラネコのイラストがプリントされたもの。

制服スモックを着ると、「師範学校生」として記号アイコン化されるファーベルだが、それでも個性に委ねられる持ち物には、

こういういかにもファーベルらしいセンスが表れ出ているのはなんとも微笑ましく、またエモい。


そういえば、前に洗濯籠にあるのを”うっかり”見ちゃったファーベルの下着も、

トラネコではなかったと思うけど、なんかそんな動物のプリント柄のだった。

今日もあのパンツ履いていったのかな。。。


自分では気づかないうちにニヤつきながら、ハンカチの隅をつまんで少しだけ捲り上げてみたところに、

先触れもなくアマリリスがリビングに入ってきて、ヘリアンサスは大慌てで手を引っ込めた。

あっっぶねぇ、裸足で歩くから音がしないんだよな、、ってかスリッパ履いてくださいよ。


懇願する思いで顔を上げたヘリアンサスの目に、今日もまた、目にしたくないたぐいの姉の姿が飛び込んできた。


「だ・か・ら💢、そういうカッコでウロつくなッ、て言いましたよね昨日も??」


「おひゃよう、ヘリアン。

ん~~?そうだっけ。。」


昨日と全く同じではないにせよ”そういうカッコ”に変わりはない、

上は両肩も露わなキャミソール1枚、当然ノーブラ、でありながらというか、それだけに一層というべきか、

形のよい胸のふくらみが溌溂はつらつと服地を持ち上げ、正面からは深い谷間が覗く。


椅子に座ったのでようやくお臍は隠れたが、ショートパンツで脚を組んで座るものだから、

上からも下からも偉大なおしりが。。。てかさすがにパンツは履いてるんでしょうね??この人。

太からず細からず、根元から足先まで健やかに伸びた脚は何かを取り繕う気すらなく、

左腿に乗せた右脚の先は宙に浮き、つま先で円を描くように揺り動かしている。


「べーつにいいわよん、見られたって減るもんじゃなし。」


「あなたはいーんですよ、あなたは、どうでも!

見せられる方が気の毒だっつーの、

博士やファーベルが、ソレ見ていたたまれない空気になるのがイヤなんです!!」


これが下着でリビングに出てきたとしたら、さすがにファーベルも注意することだろうが、

被覆面積はさほど変わらないにせよこれは「服」なんです、だから安心してください着てますよ、

と言い切られてしまうと、困惑するより術がないようだった。


「むふん。

じゃ、なんか羽織物とか買ってよ、高給取りのお役人さん❤」


「・・・いいよ。

こんど給料入ったらね。」


ヘリアンサスはドキリとした内心を繕うように、食べ終えた食器を提げて立ち上がった。


「悪い、サンドイッチは食べちゃった。

自分でパン焼くとか出来る??」


「んーー?

あたしはコレでいいや。」


アマリリスはそう言って、バスケットからリンゴを取り、牛乳をコップに注いだ。


「え、そんだけ??」


「あとからオレンジとブドウも食べるわよ、あんたいつからあたしの保護者になったんだかw。

さ、早く行きな。

遅刻するよ。」


パンとか卵も食べないと栄養偏るよ、と言い添えて、ヘリアンサスは通勤鞄を提げて家を出た。

実際、結構ギリギリの時間になってしまった。

坂下の停留所へと足を早めた。


ファーベルとは、朝は顔を合わせないこともある――そして残業となると、丸一日すれ違ったままという日も珍しくない――ヘリアンサスだったが、

姉のことは、たとえそのために役所に遅れることになったとしても、彼女の様子を確認せずに家を出ることは考えられなかった。

そして、だらしのない格好や食習慣にやきもきしつつも、そういういかにもアマリリスらしい様子に安堵して職場に向かうのだった。



「おっと、もうこんな時間か。

やばいやばい。」


8時も15分を回っているのに気づき、

食後のチャイを片手に、のんびり新聞を読んでいたアマリリスが慌てだした。

3階へと、階段を素足で駆け上がる。


洗面台で顔を洗って髪を梳かし、バレッタで束ねるのに3分、

最後の1枚を残して、着ているものを脱いでベッドに放り出し、”外に出られる格好”に着替えるのに5分、

ささっとメイクして5分、ミュールをつっかけ、きっかり15分後には家を出た。



ちなみに、ファーベルが起き出してきてからアマリリスが家を出るまでの3時間、

リビングと同じく2階にあって沈黙を保っていた一家のあるじの居室はというと――

本日は午後からの講義のクリプトメリアが活動を始めるのは、2時間ほど後になる。

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