第12話 マグノリア大学附属図書館の試練#2
手強い試練と思っていたイベントにままあることだが、実際には、心配は全くの杞憂だった。
応接室に通されてしばらく、現れたのは副館長を名乗る初老の男性だった。
ヘリボーン柄のスリーピースのスーツに、丁寧に撫でつけられた、白いものの目立つ髪、黒縁眼鏡。
アマリリスが思い描いていた、辣腕の
「アマリリス・ウェルウィチアさん。
外国の方のお名前は、お国の風土や培われた歴史が感じられて、趣深く響きますね。
ラフレシアにいらしてからは長いのですか?」
「はい、トワトワトに2年半ほど、マグノリアにはつい最近来ました。
ウィスタリアでも小さいときからラフレシア語を習っていたので、
本国のかたには及びませんが、読み書きには問題ありませんっ。」
「それは頼もしい。
専らに書誌を扱う仕事ですのでね、言語に達者なのは頼もしいことだ。」
アマリリスの積極アピールを、副館長は丁寧に受け止めてくれた。
よっしゃ、プラスポイントゲット!
「クリプトメリア教授は、生体旋律研究所でしたね。
あそこの研究業績は、近年目覚ましいものがありますな。
トワトワトに行かれる前は、発生学の分野をご専門にされていたと記憶しますが、
今も同じテーマに取り組んでいらっしゃるのでしょうかね。」
仮想問答にはなかった質問に、アマリリスはうっ、と答えに詰まった。
適当にはぐらかそうかとも思ったが、賢明にも考え直した。
「も、申し訳ございません、詳しいことは存じません。。
トワトワトにいた時は、ホヤの神経?ウズムシの、、?あと、エリクサとかを、
ガラス玉オルガンであれこれなさっていました。」
「それはそうでしたな、どうも研究室の学生さんとお話している感覚になっておりました。
どうかご容赦くださいね。」
その後も2人は雑談というか、主に副館長のほうが喋り、
彼が知るクリプトメリアの人柄や、学内での評価、研究成果に対する妥協のなさの一方で、権威にはとんと無頓着であることが、
実際には多くの好感と信望を得ていること、などを教えてくれた。
へぇ、あの博士がねぇ、とちょっと意外だったのと、
何より、今このときも自分は試されているんだという気負いで、アマリリスは出された紅茶にも手をつけず、
一言も聞き漏らすまいと熱心に耳を傾け、要所で意識して相槌を打っていた。
やがて、柱時計が4時の鐘を打った。
「ああ、もうこんな時間だ。
次の打ち合わせがありますので、今日のところはこれで。
来週から来ていただくということでよろしいですか?」
「・・・へっ?」
「配属は、参考業務のほうに入って頂こうかと思います。
同年代の女性職員が多いので、すぐに馴染んでいただけると思いますよ。
月曜の9:00に、本館3階の利用者対応局を訪ねていただけますか。
では、頑張ってくださいね、何か困ったことがあればいつでもご相談ください。」
合格ってこと??
「あっ、ありがとうございます!
一日でもひゃや、早くお役に立てるように頑張ります!!」
企業等、一般に雇用選考プロセスの(残念な結果でない方の)終結は、
雇用側から採用の意志を提示し、被用者がそれを受諾することでなされるものだが、
今回の面接の実態は選考ではなく顔合わせであり、アマリリスが採用されることは、
学内の教授からの推薦、という時点で確定していたのである。
それを知らないアマリリスではあったが、一般的な採用プロセスを経なかったことに文句などあるわけがない。
今だったら靴に羽根が生えて飛んでいけるんじゃないだろうかという気分で、
駆け出さずに居ることに苦労しながら、坂の途中のアパートへと帰っていった。
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