第11話 マグノリア大学附属図書館の試練#1
とても楽しかった一方で、その夜は、色とりどりの服や下着が四方から押し寄せてくるような夢にうなされたくらい、
体力と気力を消耗したショッピングに比べれば、本来の目的である就職のほうは、あっけないほどスムーズに決まった。
下着屋での一件を聞いたクリプトメリアが、その調子で職業斡旋所にでも行った日には、どんな突拍子もない勤め口を見つけてくるか知れたものではない、と思ったかどうかは定かではないが、
翌々日、もし気に入れば、と言って紹介してくれたのは、マグノリア大学附属図書館の事務員の職だった。
ブラウスのリボンを、何度かやり直した末に気に入ったフォルムに結び、
ストッキングの中の下着の収まりが若干気になりつつ、颯爽とスーツをまとい、長い髪をバレッタで束ねてバッグを提げれば、美人キャリアウーマンの出来上がり!
あ、メイク忘れてた。
化粧ポーチの中には、化粧品店の店員に勧められるがままに購入した、というか買わされた、チークにアイシャドウ、マスカラと色々入っているが、使いこなす自信もないので、
軽くファンデーションを塗って眉を整え、明るめの色の口紅をさし、どうだっ!と鏡から振り返ると、
クリプトメリアまでもが見惚れて、タバコを取り落としそうになったほどの艶やかな姿がそこにあった。
自分で勧めておきながら、一介の事務員にしておくは勿体なくはないか、、?などと思案する翁をよそに、じゃ、行ってきます!と元気よく、面接に出かけていった。
不慣れなパンプスに油断するとよろめいたりしつつ、アパートの前の坂を登ると、坂下のとは別系統の市電が走る通りがあり、2つ目の停留所がマグノリア大学正門前となっている。
発車したと思ったらすぐまた次の停留所に停まる市電の、わずか2駅ぶんの距離のために、貴重な回数券を消費するのも悔しい。
今日もよく晴れたマグノリアの空の下、アマリリスは歩道に軽快な靴音を鳴らせ、こちらを振り返って見る人の視線を心地よく受け流しながら、交差点を渡り、赤レンガの塀に囲まれた大学の敷地に沿って歩いていった。
面接とは、採否の判断のために行われるもの。
受け答えのしかた、面接官に与える印象次第で、その後の命運が分かれる試練――
そう思っていたから、マグノリア大学中央図書館の、ボレアシアの教会を思わせる荘重な建物の正面に来た頃には軽く緊張していた。
外国人、しかも故郷の初等学校も(戦争のせいなんだけど)卒業できなかったあなたの強みはなんですか?
なんて聞かれたら、、そん時は開き直って、美人キャリアウーマンなところです、と言うしかない。
負けるなあたし!
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