第6話 漂泊者の帰還

”だめだ。”


彼からは聞いたことのない、厳しい一言だった。


だっ、ダメなのぉ??


驚愕に凍りついたようになって、アマリリスは視線を上げた。

しかしクリプトメリアが言わんとするのは、アマリリスが受け取ったのとは真逆のことだった。


「あなたを、一人にすることは出来ない。」


「博士・・・?」


「まさか、アマロックに飽きたんで別れましたなどと言うつもりじゃあるまい。

君の顔色をうかがうまでもなく、状況でわかるよ。

ひどく辛いことがあったという事だけは。」


さきを上回る驚愕に、ふたたび、アマリリスは凍りついた。


「詮索するつもりはない。

よく、来てくれた。」


クリプトメリアはアマリリスの両手を取り、固く握りしめた。


「トワトワトにやって来た時の君は、もう死ぬ運命が決まった小鳥のようで、

痛ましくてとても見ていられなかった。


最も恐れていたのは、再び君がああなってしまうことだった。

もしそんなことがあれば、君は今度こそ生きてはゆかれないだろうと、


君の決断に委ねたことを悔やみ、

何度、無理矢理にでも、君を連れ戻しに行こうと思ったか。


それでも君はやって来た。自分の意志の力でだ。

私は心底驚いた。


強くなったね、バーリシュナ。

だがもういいんだ。

冬の荒野に身一つで立ち、凍てつく吹雪に切り刻まれながら平然と生きて行く、

そんな必要はどこにもない、

君は魔族ではないのだから。


働きたければそうしなさい、

よかったらあてを紹介しよう。

酒が飲みたければ、毎晩でも連れて行ってやろう。

そのかわりここから出て行ってはだめだ。


その頬が元のバラ色に戻って、

新しい男でも出来て、それで家を出たくなったら、その時はそうすればいい。


だが今はだめだ。


今の君には我々が必要だ。

君の心の傷を治すことは出来なくても、

たとえその傷が、一生涯癒えることがないとしても、

いたわりと、血の通った心に見守られることが、どうしても人間には必要なんだ。


我々に君を支えさせてほしい。


あなたはもう一人ではない。

たった一人で苦しむのはもう終わったんだよ。」



暫くの間、アマリリスは壊れた人形のように、身動きもしなかった。

やがてその肩が、小刻みに、激しく震え出した。

長い呻きのような嗚咽から始まり、そしてアマリリスは激しく泣きはじめた。


泣き疲れ、声も涙も枯れ果てるまでには、長い時間がかかった。

長い間失われていた彼女の魂が、今ようやく戻って来たのだった。

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