第4話 ヴズリーブ!

その晩は楽しい一夜になった。


仕事を放り出したクリプトメリアに連れられて入った食堂は、

何十という電燈で眩しいほど明るく、大勢の人たちで一杯だった。

テーブルには豪勢な食事が山と盛られ、そのどれもがびっくりするほど美味だった。


「おいしー、すっごくおいしい!」


アマリリスは次から次へと運ばれてくるご馳走を片っ端から頬張った。


「まあ飲め、バーリシュナお嬢ちゃん。」


「はぁい♡」


クリプトメリアがグラスに溢れるほど注いでよこしたビールを、

アマリリスはごくごくと音を立てて飲んだ。


「あんたあたしの質問に答えてないじゃん、ヘリアン。

何だってそんなあか抜けたカッコしているのょ?」


三杯目を飲み干し、そろそろ呂律のおかしくなったアマリリスが、

周囲の喧騒に負けない大声で尋ねた。


「あ、これ?仕事の服。」


「仕事?って、あんた働いてんの??」


「うん。」


「お役所で働いてるのよ、ヘリアン君。」


ファーベルがどこか誇らしげに口を挟んだ。


「見習いみたいなもんだけどさ、州庁府で、雑用三昧!」


「ふっごーい、偉いじゃん。

いいな、あたしも働きたい!!ヘリアン、雇って!」


「だめだめ、役所だからアル中は雇わないって。」


「にゃぁんだとぉ~~?」


「朝、センナヤ広場に行ってみれば。

大酒飲みのお友だちが掃いて捨てるほどいるよ。

みんな日雇いの仕事とか探してるから。」


「あんたいつから、このあたしにそんな偉そうな口を、

ちょっとファーベル、何とか言ってやってよ。」


「だめよ、ヘリアン。」


ファーベルはまるで仔犬を諭すように言って、ヘリアンの頭を平手で撫でた。


「あっ、いいな~、あたしもいい子いい子して。」


「わしゃこやつに言ったんだがね、

なかなか見どころはあるし、大学に入って学を積めと。

ところがイヤです自分で稼ぎます、ときたもんだ。

いやはや世知辛い、わしがこやつぐらいの頃は、鼻水垂らして野っ原を・・・」


「はかせー、あたしのお酒がなぁいぃーー」


アマリリスが空のコップを突き出した。


「なんだ、もう飲んじまったのか?

一体君の胃袋はどうなっとるんだね。

面倒だ、ウォトカにしよう。

おやじ! ヴズリーブ一本!!」


誰もが底抜けに陽気で、

下らない冗談とばか騒ぎが尽きなかった。


一番の乱行ぶりを披露したアマリリスは、自分では冷静なつもりの頭の片隅で考えていた。

ひどくやつれているのは、船旅の疲れのせいに見える筈。


皆がアマロックの事を訊いてこないのは、失恋と聞いて気を使ってくれてるから。

トワトワトにいたときの話が出てこないのは、今がとても楽しいから。




大丈夫。

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