第26話 イレギュラー 4


 アンジュリーンとカミュルイアンが交互に魔物を倒していると、最後尾の魔物に対してレィオーンパードが攻撃を仕掛け出す。

 先にレィオーンパードとアリアリーシャの方が早く自分達に向かってきた魔物を倒していたので、アンジュリーン達の方に加勢に来た。

「チェッ! 向こうの方が早かったみたいね」

 アンジュリーンは面白く無さそうに吐き捨てると最後の魔物を倒した。

 その魔物から黒い炎が出ているのを確認すると、もう一度、周囲を見渡し向かってくる魔物が居ないと判断すると、腰の鞘に剣をおさめる。

「あー、同じ数になるように分断したけど、結局最後はレオン達の方が早かったわ」

「でも、分断するように倒した分、アンジュの方が多く魔物を倒したんじゃないの」

 残念そうに言うアンジュリーンに、カミュルイアンはフォローを入れると、直ぐに表情が変わった。

「そうよね。分断した時に倒した魔物の数を考えたら私の方が多く倒しているわ。うん、そうね。カミュー、使った矢とコアの回収よ。矢だってタダじゃ無いんだから、使えそうな矢は次も使うわよ」

 そう言って周囲を見渡し、落ちている魔物のコアと矢を探し始めるので、その変わり身の速さにカミュルイアンはヤレヤレといった表情をするが、直ぐに同じように魔物のコアと使った矢の回収を始めると、レィオーンパードとアリアリーシャも魔物の攻撃が終わったと判断し魔物のコアの回収を始めていた。


 回収が終わるとアンジュリーンの元に三人が集まってきた。

「意外に多くのコアを集められたわ。結構、良い稼ぎになったんじゃないかしら」

 得意そうに話すアンジュリーンだったが、アリアリーシャは面白く無さそうな表情をした。

「レオン。あんた始まる前に、ざっと二十匹とかって言ってなかった」

「え、そうだったかなぁ」

 レィオーンパードは、ドキッとしながら答えると、アリアリーシャは大きく息を吐く。

「そうね。一人二十匹は倒したと思うわよ」

「そ、そうなんだよ。一人二十匹じゃないかと思って言ったんだよ」

 言い訳になりそうな事を言ってくれたので便乗しようとすると、アリアリーシャは片頬をピクリと動かす。

「レオン」

 アリアリーシャは、睨みながら名前を呼ぶと、レィオーンパードは言いたい事が分かっているのかシュンとなった。

「ごめん」

「まあ、全部倒せたんだから良いじゃないの。それにコアも沢山集められたんだからぁ」

 アンジュリーンは擁護する言葉を掛ける。

(アンジュには困ったものね。これは危機管理に付いての話なのだから結果なんてどうでもいいのよ。今回は運が良かっただけなの。弓で分断して各個撃破出来たから良かったけど、分断に失敗したら数十匹の魔物に囲まれてたかもしれないのよ。強い個の力より弱い集団の力の方が戦略的には有利だって知っているでしょ。それに一人二十匹位って、八十匹って事じゃない。数が違うにも程があるでしょ!)

 睨むように見られたアンジュリーンは怯み次の言葉を探していたようだが見つからずにいると、アリアリーシャは、ガッカリするようにため息を吐いた。

「結果はいいのよ。でもね、この王都周辺の魔物だった事、狂気に満ちた様子で攻撃してくる魔物だった事、アンジュ達の矢が足りなくならなかった事、全て幸運だっただけなの。これが、大ツ・バール帝国に発生する東の森の魔物だったらどうするのよ。あの魔物は過去に討伐された記録が無いの。あんなのが今の数だけ来たら私達は瞬殺されて、今頃、魔物に喰われて骨も残ってないわ」

 そこまで言われるとアンジュリーンも黙ってしまう。

「私達は命のやり取りをしているのだから、大きな見誤りは死ぬかもしれないって事。その事を忘れないでいて欲しいのよ。結果的に今回は四倍の魔物と対峙していたのだからね。せめて、誤差は一割か、せめて二割以下になるようにしないと」

「アリーシャ。レオンも反省しているみたいだから」

 シュンとしているレィオーンパードを見てカミュルイアンが声を掛けてきた。

「そうね。でも、雑すぎるのは困るのよ。どこかに適当で良いと思える心があったから、いい加減な発言になってしまった。今は訓練みたいな狩だったのだから、本当に危険な狩の時に致命的な失敗をしない為に、こんな簡単な狩の時には厳しく言うのよ。危険な狩の時に死んでしまわないように心に強く刻んでおくの!」

 アリアリーシャの言っている事は全員が理解できている。

 この国の魔物は強い魔物とは言えない事もあり、当然王都周辺も強くは無い。

 ギルドの高等学校を卒業した四人になら十分に対応できるレベルではある。

 弱いからと言って油断をしていたら致命的なミスを犯す可能性が高い。

 今後、王都を出て他国へ向かい強い魔物と戦う予定が有る事を考えれば実戦経験は大きな糧となる。

 一番若いレィオーンパードは、常にジューネスティーンとシュレイノリアと行動を共にしていた。

 ジューネスティーンとシュレイノリアもベテランの冒険者達から基礎を叩き込まれていた事と、二人での狩で危険な目にあった事もあり、レィオーンパードに対しては安全基準を低く保ち続けていた。

 最悪な状況に陥ったとしてもシュレイノリアやジューネスティーンが助ける事もあり、どこか適当でも大丈夫だとたかを括っていた部分があった。

 今回は、エルフのアンジュリーンとカミュルイアン、ウサギの亜人であるアリアリーシャという四人だけのパーティーであり魔法による援護も無い状況なら、レィオーンパードにも高い判断が必要となる。

 アリアリーシャは、レィオーンパードのジューネスティーン達二人と一緒なら安心だと思うのではなく、誰からも必要とされる一人になって欲しいと考え反省点を伝えた。

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