第23話 イレギュラー


 アリアリーシャもレィオーンパードが尻尾や耳をシュレイノリアに触られている話を聞いてゾッとした表情のまま固まってしまう。

「ねえ、ここにシュレはいないの! だから、あんた達の尻尾も耳も触る人は居ないわ。私だって、この耳を触られるのは嫌なんだから、私達が二人の尻尾も耳も触る事は無いわ」

「そ、そうだよ。そんな事はしないよ」

 カミュルイアンにも言われて、二人の表情は和らぐ。

 エルフも人属とは違い横に長い耳を持っており、亜人同様他人に触られる事を嫌う事を考えれば、亜人の尻尾も耳も触られるのを嫌がる事にも理解があると納得した。

「そ、そうだった。シュレ姉ちゃん以外に触ららた事は無かった。な」

 レィオーンパードが納得するように言うとアリアリーシャもホッとしたのか、軽く体を動かして自分の尻尾や耳を触られた時の感覚を振り払ったようだ。

「そうね。ここには、他人の耳や尻尾を触るなんて人は居なかったわね」

「ねえ、気持ちも落ち着いたのなら、次の魔物を狩りましょう」

「分かったわ」

 アンジュリーンに答えるとレィオーンパードを見た。

 お互い亜人という事もあって尻尾を他人に触られる事を想像するだけでも気持ちが滅入るので気持ちが落ち着いたかを確認する。

「レオン。じゃあ、次の魔物に取り掛かりましょう」

「うん。場所は分かっているから、同じように引っ張れば良いね」

 アリアリーシャに答えると、レィオーンパードはカミュルイアンとアンジュリーンに視線を送ってから狙っている魔物の方向を指差しながらホバーボードを前進させた。

「ふーん、あっちの方に行くのか」

「レオンもオイラ達と連携しようとサインを送ってくれたね」

「分かっているわよ! 今度は作戦通り牽制するわ!」

 少し面白く無さそうにしたアンジュリーンの様子を見てカミュルイアンは含み笑いをすると自身も弓の準備を始める。

 ゆっくり進み始めたレィオーンパードは、陣地の三人の視線に見守られながら自分が指示した方向に向かう。

「それじゃあ、狩らせてもらいましょう」

 一箇所に視線を向け、その方向に進んでいくと、ホバーボードの方向を進行方向から離脱する方向に向け斜めに横滑りするように移動する。

 目的の場所に徐々に近付いていくと地面から魔物が飛び出して走りだすと、レィオーンパードは一気に加速する。

 その魔物を見たアリアリーシャの表情が変わった。

「ちょっと、レオンの言っていた魔物って、あの魔物なの!」

 その魔物は、今までの魔物より二回りほど大きな四足歩行の魔物だった。

「え?」

「アリーシャ。あの魔物ヤバいの?」

 嫌そうな表情のまま、レィオーンパードを追いかける魔物を見ている。

「あれ、レオンの言っていた買取価格の高い魔物じゃないわ。あれは、自分が死ぬと分かった時や獲物を逃した時に周囲の魔物に知らせるのよ。一撃で倒せないと周辺の魔物が呼び寄せられて、場合によっては数十匹を相手にする事になるわ! だから、矢は牽制に使って! あの大きさの魔物だと矢の攻撃だけで倒せそうもないから確実に首を落とすようにする」

 そう言うと走り出した。

「アンジュ、二人が配置についたら、慎重に狙うよ!」

「ふん! 当たり前でしょ。あの大きさじゃ、アリーシャの言った通りよ。呼ばれた魔物にもよるけど、四人で数十匹なんて、ごめんよ」

 アンジュリーンの答えにカミュルイアンは安心した様子でアリアリーシャの動きを目で追うと魔物の後ろに迫ろうとしており、自分の矢を着弾させる為に岩を回って位置を決めると弓を構えた。

 その瞬間、アンジュリーンの矢が放たれ魔物の前方に着弾する。

 その寸前にカミュルイアンも遅れて矢を放っていたので、着弾した直ぐ先に矢が着弾すると、魔物は立ち止まってアンジュリーンとカミュルイアンを睨み口を大きく開いて牽制してきた。

「何よ! あいつ、こっちを睨んでいる」

「……」

 その様子にアンジュリーンはムッとして声に出すが、カミュルイアンは変な違和感を覚えた様子で次の矢を用意した。

 すると、止まった魔物に追いついてきたアリアリーシャが通り過ぎると魔物の首が地面に落ち、3メートルほど通り過ぎた所で止まると二人の方を向く。

「アンジュ! カミュー! 後方を確認して!」

 そう言うと二人の方に走り出す。

「レオンも二人の方に来て!」

 レィオーンパードは、引いた魔物を倒したのかが気になったようだが、アリアリーシャの声に反応するように方向を変える。

 直ぐに異変に気付く。

「姉さん。魔物がいっぱい、こっちに向かってるよ」

 アリアリーシャは、面白く無さそうな表情をする。

「アンジュ! 出番よ! 見えている魔物、片っ端から射抜いてかまわないわよ!」

「もう、やってるわ!」

 矢を放ちながら答えると、カミュルイアンも同じように矢を放ち、アンジュリーンも次の矢を弓に添えて二射目の狙いを定めようとした。

 アリアリーシャとレィオーンパードが岩の下に来る。

「あんな奴が、こんな場所に居るなんて」

「姉さん」

 イラついたアリアリーシャの呟きにレィオーンパードは申し訳なさそうに言う。

「こんなイレギュラーが起こるとは思わなかった。でも、生き残るわよ」

 アンジュリーンが二射目を放つ。

「何言っているのよ! あいつらは獲物よ! 全部狩って、魔物のコアにしてあげるわ!」

 三射目の矢に手を掛けつつ言い放つ。

「近付くまでに数を減らすから、そっちは近接戦闘に備えて」

 カミュルイアンも続けて矢を放ち次の矢を用意した。

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