第20話 カミュルイアンの不安


 アリアリーシャは、アンジュリーンとカミュルイアンに説明を終えるとレィオーンパードも近寄ってきた。

「岩の周りには魔物はいなかったよ」

「あ、そう。良かったわ」

「……」

 レィオーンパードの報告に、アンジュリーンは素っ気なく答える。

 カミュルイアンは、顎に手を当てて考えていたので答える事は無かった。

「レオン。今度はぁ最初の時みたいにぃ岩の周りを回ってくださいぃ」

「えっ! それだと、弓で仕留められないかもしれないじゃないの?」

「構いません。弓は牽制に使いますぅ。その後にぃ私が仕留めますぅ」

 レィオーンパードは、何の事だというようにアリアリーシャを見るので、二人に説明した内容を話す。

「うーん。良いんじゃないかなぁ。面白いと思う」

「良いと思うんだけど。本当に大丈夫なのかなぁ」

 カミュルイアンは、不安そうに言う。

「カミューは心配性だなぁ」

「そうよ。あんたは臆病すぎるのよ」

 能天気そうに答えるレィオーンパードに、アンジュリーンはつまならそうに言う。

「そうじゃないと思いますぅ。カミューは問題が無いか、不確定要素を潰しておきたいと思っているだけなんですぅ」

 アリアリーシャは、二人の意見とは違い擁護するので、カミュルイアンは少しホッとした。

「カミューは、私の案に問題点があるかもしれないと思ったのでしょ。思った事を話してくれないかなぁ」

 促されるが、カミュルイアンは不安そうのまま黙っている。

「問題になりそうな事はぁ、予め議論しておいた方が成功率が上がりますぅ」

「あ、そうか。戦略の基本かぁ」

「それ学校で習ったわね」

「そうですぅ。大事な事なんですぅ」

「そうだったね」

 カミュルイアンも納得する。

「気になったのは二つかな」

 カミュルイアンが話す気になるとアリアリーシャはホッとした。

「まずは、オイラ達の矢がアリーシャに当たらないかって事。牽制の為の矢だからといっても手前に着弾するとは限らないかと思うんだ」

「何よ。最初の私の矢が魔物の後ろを通過した事を言っているの!」

 カミュルイアンを睨みつけるようにして言う。

「そうでしたねぇ。でもぉ、アンジュも慣れてきていますからぁ、その可能性は低いですぅ。それにぃ、魔物の後ろに私がいたらぁアンジュだって意識しますからぁ、きっと、魔物の後ろに矢が着弾するとは思えませんねぇ」

「そうだよ。斜めに囮をした時、囮の俺に当たる事は無かったんだから問題無いと思うよ」

 アリアリーシャとレィオーンパードがフォローすると、アンジュリーンはカミュルイアンを睨むのをやめ二人の方を見た。

「何よ。レオンまで」

 アンジュリーンは、少し頬を赤くした。

 二人がアンジュリーンの矢の精度が上がったと認めてくれた事が嬉しかったようだ。

 その様子を見てアリアリーシャは安心する。

「カミュー、もう一つはどんな事なの?」

「追いかける時って、岩の所から走り出すんだろ。囮のレオンはホバーボードだから追いつかれないだろうけど、魔物が追いかけるレオンから方向を変えないかと思ったんだ」

「俺だって距離は理解しているさ。岩からの距離は十分に離れて回るから大丈夫だよ。カミュー達の方に向かわせるような事はしないよ」

 自分の名前が出てきて面白くなさそうに反論するが、カミュルイアンは、自身の考えていた事とは違うので申し訳なさそうな表情をする。

「いや、そうじゃなくて、アリーシャが動き出した時とか、後ろに付いた時だよ。魔物がアリーシャに気がついて方向を変えたらどうするんだよ」

 アリアリーシャは、自分を気遣うカミュルイアンに嬉しそうにすると、直ぐに納得するような表情をする。

「レオンが、岩の周りを走り出してからぁ、迂回しつつ後ろに付くようにします。私の足の速さは知っているでしょ」

 カミュルイアンを安心させようしたが表情には不安があった。

「後ろに付いた時、急に止まって方向を変えたら?」

 なる程というようにウンウンと頷きながら考えると直ぐに結論を得たようにカミュルイアンを見る。

「その時は、矢の牽制は無しですぅ。その代わり、レオンに声を掛けてくださいぃ。私とレオンで挟み撃ちにしますぅ」

「挟み撃ち」

 レィオーンパードは、あまり乗り気ではないように答えた。

「この辺りの魔物だからね。姉さんが引けを取るとは思えないよ。二人で挟み撃ちにする前に仕留めているさ」

 レィオーンパードは、一人でホバーボードを走らせていた事もあり、この辺りの魔物には詳しかった。

 自身で狩った事もあるから十分に承知している。

 それを聞いてアリアリーシャが、しょうがないやつだと思ったように表情を変えた。

「へー、あんた、この辺りの魔物に詳しいのね」

 話を聞いていたアンジュリーンは意外そうな表情で言うと、レィオーンパードは苦笑いをする。

「あ、まぁ、ギルド支部の冒険者達が話しているのを聞いていたからねぇ。話の内容から、姉さんなら大丈夫だと思ったんだよ」

「ああ、そうだったの」

 アンジュリーンは、レィオーンパードが一人で魔物を狩ってた事を知らなかったが、アリアリーシャとカミュルイアンは聞いていたのでお互いを見ると苦笑いをした。

「それじゃあ、作戦内容は決まったし、問題になりそうな事も頭に入ったから始めましょうか」

「そうだね。アンジュは岩の上から狙って、オイラは下から狙うよ」

「あら、二人で上の方が良いんじゃないの?」

「今度は、アリーシャがメインになるけど、最悪の場合、オイラ達に向かってくる魔物がいたら地面にいた方が弓を置いて剣を使えると思うんだ。オイラも剣の扱いに慣れておきたいから」

 レィオーンパードが面白くなさそうな表情をするのをアリアリーシャは見逃さなかった。

「良いんじゃないかしらぁ。カミューは弓だけだったからぁ、剣を使う機会が会っても良いと思いますぅ」

 アリアリーシャが納得したので、レィオーンパードは仕方なさそうにした。

「ま、その必要に迫られるとは思えないけど、カミューとアンジュで決めればいい話だと思うよ」

「じゃあ、始めましょうか」

 アンジュリーンは、そう言うと岩を登り始めると、アリアリーシャは聞き耳を立てた。

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