第16話 狩場の移動
岩の上に立つアリアリーシャは、何か考え始めていた。
「ねえ。そろそろぉ、この辺りのぉ魔物も減ってきましたしぃ、もう少し奥の方に移動しませんかぁ」
「そうしてもらえると、ありがたいよ。遠くなてくると、魔物が途中でゆっくりになるから速度を緩めなければいけないんだ。ゆっくりになりすぎると襲い掛かられそうだし、緩めすぎると魔物が諦めて止まってしまったりするから、近場で同じ速度で走った方が楽なんだ」
ホバーボードをゆっくり動かしながらレィオーンパードが答える。
魔物にも体力の限界がある事から、全力疾走できる時間は限られるので、周囲の魔物を狩ってしまえば徐々に遠くの魔物が対象となった結果、魔物の全力疾走できる距離から離れてしまっていたので、遠距離の場合は魔物の体力を考えつつ速度の調整を行う必要があった。
アンジュリーンは、少し考えるような表情をした。
「そう。でも、遠くから走らされた魔物は速度が遅かったり、反応も単調になるから弓で狙う側としては助かるんだけど」
レィオーンパードが長距離を囮として魔物を走らせて疲れさせる事によってパフォーマンスが下がった状態ならば弓矢の命中率も上がっていた事をアンジュリーンが指摘した。
「まあ、確かにそうなんだけど。本当に、それで良いのかな」
「何よ、カミュー。私の考えに文句があるの!」
言われてカミュルイアンは黙ってしまった。
「この辺りの魔物ならぁ、訓練的なレベルでぇ考えていた方が良いですねぇ」
アリアリーシャは、わざとらしく何かを考えるような表情をした。
「アンジュもぉ、剣で倒せる程度ですからぁ、疲れて足が遅くなった魔物よりぃ、近場の魔物を狩った方がぁ、良い経験値になると思いますぅ。これから先ぃ、強い魔物と戦う事を考えたらぁ、難易度は上げておいた方がぁ得策ですねぇ」
アンジュリーンは、面白くなさそうな表情をする。
「それに、もう少し先の方が魔物のコアの買取価格が高い魔物が居るんじゃなかったっけ。難易度は少し上がるけど、今の方法なら問題無いんじゃないかなぁ」
レィオーンパードの言葉を聞くと、アンジュリーンの表情が変わった。
「そうね。買取価格が高い魔物の方が稼ぎも増えるわ。移動しましょう。レオン! 今言ってた魔物て、どっちの方に居るのよ」
「えっ! ああ、あっちの方だよ」
レィオーンパードは、街道とは反対の方向を指差した。
「じゃあ、移動するわよ」
そう言うと、アンジュリーンは歩き出したが、三人はアンジュリーンの変わり身の速さに唖然としていた。
「レオン。その魔物って、どんな魔物なの?」
言いながら振り返ると誰も動き出してなかったので、動きの鈍い三人を見てムッとした。
「ねえ、移動するんじゃなかったの!」
「あ、そうだね」
カミュルイアンが慌てて岩の上から飛び降りると、後ろを振り返ってアリアリーシャに手を差し出した。
カミュルイアンにとっては大した高さでは無いかもしれないが、130センチのアリアリーシャには身長と同じ位の高さとなると、岩の上から地面は高すぎると思ったようだ。
そんなカミュルイアンの何気ない行動に、アリアリーシャは嬉しそうにした。
「カミューは、本当に優しいのですねぇ。希少種の男性エルフはぁ、王様のように偉そうだと聞きますけどぉ、カミューはぁ別格ですぅ」
そう言うとカミュルイアンの手に自身の手を添えると飛び降りると、その動きに合わせるようにカミュルイアンは添えられた手を動きに合わせて動かし、アリアリーシャが岩から降りるのを手伝った。
「ありがとう、カミュー」
地面に着地するとアリアリーシャは直ぐにお礼を言ったが、その様子を見ていたアンジュリーンは面白くなさそうな表情で二人の様子を見ていた。
カミュルイアンとアンジュリーンは、二人同時に転移してきた珍しい転移者だった事から兄妹と見られていた。
顔貌や髪質も髪の色も似ている事から兄妹のような血縁関係だろうと判断されおり、エルフでは珍しい二卵性双生児ではないかと言われていた。
気の弱いカミュルイアンと、勝ち気なアンジュリーンともなれば、今の何気ない行為でも気に食わないと思える事もある。
アリアリーシャは、アンジュリーンの表情を視界の隅に捕えると、見えないようにニヤリと笑みを漏らすとカミュルイアンを見た。
「本当にぃ、カミューはぁ、紳士ですねぇ。私がぁ、エルフだったらぁ、絶対にぃ、お婿さんにぃしてぇ、毎日甘えさせているでしょうねぇ。でもぉ、種族の違いはぁ超えられませんからぁ、とてもぉ残念ですぅ」
カミュルイアンは恥ずかしそうに顔を赤くするが、アンジュリーンは、イラついた様子で眉をぴくりと吊り上げた。
「さあ、行くわよ!」
アンジュリーンは声を掛けると、そそくさと歩き出した。
その様子を見てアリアリーシャは吹き出しそうになったが、気にする事は無く後を追うように歩き出した。
揶揄われたカミュルイアンは困った様子で二人の歩いている方を見ていると、レィオーンパードがカミュルイアンの横にホバーボードに乗って寄ってきた。
「姉さん、また、アンジュにイタズラしてぇ。冗談でも言って良い事と悪い事があるだろう」
「え、冗談だったの?」
カミュルイアンは驚いた様子でレィオーンパードを見た。
「ほら、さっき、姉さんに手を貸しただろ、ああいった行動って、異性の兄妹だと変な嫉妬みたいなものがあるらしいぞ。兄の嫁に嫉妬する妹みたいなものがあるとかってやつだよ」
「ふーん、そうなのか」
カミュルイアンには分からない話だったのか、レィオーンパードの解説を新鮮な様子で聞いていた。
「それより、俺達も行こうぜ」
「ああ」
レィオーンパードが動き出すと、カミュルイアンは、それを追い掛けて小走りになって後を追う。
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