第14話 他者の目


 街道を王都に向かって地竜に乗る集団がいる。

 地竜は馬より最高速度は遅いと言われるが、長距離の移動には馬より適していると言われている。

 馬は人の歩く速度での移動ならば問題無いが、それより速い速度で長距離には適してないが、地竜は人のランニング程度の速度より速く長距離移動が可能な事から旅には重宝されている。

 また、爬虫類と哺乳類の違いから飼馬も少なくて済むと旅のような長距離移動には都合が良い。

 その七人の集団は、先頭を行く人属の女性が一人と、それに付き従うように人族三人とドワーフ二人、そして、大柄な亜人が一人という組み合わせの七人集団が、それぞれ地竜に乗って王都に向かっている。

 すると、一番後ろにいた大柄な亜人が速度を緩め遅れ出した。

 亜人は頭から二本の角が、後ろ向きに左右へ開くように伸びたエラント系亜人であり、大きな獣の特徴を持つ耳をヒクヒク動かしている。

「あのー、この近くで狩をしている集団が居るようです」

 身長がグループの中で一番高いエランド系亜人が恐る恐る伝えると、直ぐ前を行くドワーフの二人が振り向いた。

「お前は何でいつも臆病そうに言うんだ」

 イラッとするように背は低いががっちり体型のドワーフの一人が言う。

「ジルバサルの言うとおり、こんな場所でも魔物は居る。狩をするなんて日常茶飯事じゃないか」

 もう一人のドワーフが同意するように言い、エランド系亜人は一旦黙るが思い直すと口を開く。

「いえ、どうも、普通の狩とは違う音が聞こえるんです。何か変な風の音が、普通の風とは違って部分的に草を強く震えさせるような音? 風魔法の攻撃とは違うんです」

 二人のドワーフは、ヤレヤレと面倒臭そうな表情をしている。

「珍しいな。マルギーブがショクムンとジルバサルに言われても黙らないのか」

 先頭を行く一人の女性が声を掛けると止まったので、後ろを付いてくる男達も止まる。

 先頭の女性は、気になる様子で後ろを振り向いた。

「マルギーブ、その音の方向はどっちだ?」

 エランド系亜人は丘の方を指差した。

「あの丘の向こう側だと思います」

 その丘は、街道に沿って平行に丘陵が走っているため、丘陵の先は見る事ができなかったが、臆病な性格のマルギーブには音にも敏感に反応するので、聞いた事の無い風の音に違和感を覚えていた。

 先頭の女性は一瞬考えるような表情をする。

「そうか」

 その女性は丘を見ると自分に一番近い場所にいる人属の男を見た。

「ナギシアン」

 名前を呼ぶと顎を振って丘の方を見た。

「かしこまりました。姫様」

 そう言うと地竜から降りて隣の男を見る。

「フォルツエ、俺の地竜を頼む」

 ナギシアンは、手綱を渡し静かに丘に向かった。

 その様子をジルバサルが目で追い、ある程度の距離になった所で先頭の女性に視線を向けた。

「ルイネレーヌさん。偵察するならナギシアンより俺たちドワーフの方が小柄だから適任だと思うんですけど」

 ドワーフのジルバサルが気になって聞くが、ルイネレーヌは首を横に振った。

「マルギーブは、変な風の音を聞いたと言った。風魔法ならナギシアンも使うから、どんな魔法なのか見分けられるだろうし、使い方が面白いなら私達の戦略に組み込めばいい」

 ジルバサルはルイネレーヌの話を聞いて納得するように頷いた。

「それも、そうですね。風魔法の新しい使い方かもしれませんね」

 そう言うと、ナギシアンを視線で追った。


 偵察に出たナギシアンは、丘を登り向こう側が見える所まで行くと目的のものを確認したのか、徐々に頭を下げ、最後はうつ伏せになってゆっくりと前に進み頂上付近で止まり向こう側を伺うと動く様子もなく見入ってしまったまま戻る様子が無い。

 ルイネレーヌは、自分が思っている以上に時間を掛けて見ているナギシアンが気になり列の後ろにいるマルギーブを見ると、その表情は心配そうにナギシアンの方を見入っていた。

「どうしたんだ? おい、マルギーブ」

「はい」

 マルギーブは声をかけられたのでルイネレーヌを見るが、不安そうな表情は変わらない。

「さっきの変な風音って、まだ、聞こえているのか?」

「ええ、途切れ途切れではありますが、聞こえてます」

「ふーん、そうか。……。ちょっと、見てくる。ウィリオーミ」

 ルイネレーヌも地竜から降りると、ウィリオーミに手綱を渡しナギシアンの方に向かうと、同じように、ある程度の高さまで歩いて行くと徐々に頭を下げてから這うようにしてナギシアンの横にうつ伏せになった。

「何か気になる事があったのか?」

 神妙な様子で向こう側で狩をしている四人の集団から視線を逸らさずにいる。

「おそらくですが、あのヒョウの亜人が使っている板から聞こえていると思うのですけど、あんな物初めて見ました」

 そのヒョウの亜人は、細長い板の上に乗って移動し、時々、魔物に追いかけられると三人の方に移動して二人の弓矢によって倒していた。

 エルフの女子が地上から、岩の上にはウサギの亜人が指示を出したりしつつ、一緒に岩の上にいるエルフの男子が弓を使って攻撃していた。

「ウサギの亜人とヒョウの亜人、それにエルフの男女が一人ずつか」

 ルイネレーヌは何か思い当たるような表情をする。

「人属の男女が足りてないのか」

「あの四人の事、ご存知なんですか?」

 ナギシアンは、意外そうな表情をした。

「今年、ギルドの高等学校を卒業した連中だ。武闘大会に潜り込んだ時に見た。あのパーティーのリーダーは、一年の後期に変なフルメタルアーマーを使っていた。おそらくリーダーが盾役なんだろうが、それと女の魔法職が、もう一人いたはずなんだ。それも相当な魔法の使い手という話だ」

 武闘大会と聞いてナギシアンは面白くなさそうな表情をした。

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