第12話 アンジュリーンとレィオーンパード


 一発で魔物の眉間を矢で撃ち抜いて勝ち誇ったような態度をするアンジュリーンを見ていたアリアリーシャはヤレヤレといった表情でカミュルイアンを見上げた。

「カミュー、ありがとう。アンジュは、何かと対抗意識を持つから、あなたも大変よね。でも、これでアンジュの気持ちも晴れたでしょうから、次の魔物からも大丈夫かな」

 アリアリーシャは、アンジュリーンに聞こえないよう小声で話すと、見透かされている事に微妙な表情を浮かべるが、直ぐに配慮してくれた事に感謝するように軽く会釈をした。

「アンジュは、その時の気分で命中精度が変わるから。上手い戦術を考えてくれて助かったよ」

 アリアリーシャは、自分の考えていた事がカミュルイアンに伝わったと思ったのか少しくすぐったそうな笑顔になった。

 先に魔物を射抜いたカミュルイアンは横に動く魔物を射抜いていたが、アンジュリーンは移動速度と矢の届く位置の計算が上手く出来なかった事から撃った矢は魔物の後ろを通過していた。

 今度は、斜めに向かってくる魔物に狙いをつけさせて、横への動きを最小限にするようにする事によって狙い易くさせて、追いかけられるレィオーンパードの横を通過させるようにさせた。

 アリアリーシャは、アンジュリーンに気付かれないように配慮した作戦を考えており、その事をカミュルイアンも理解できていた。

「カミューは、本当にアンジュの事を思ってるのね」

「だ、だって、気が付いた時は二人で砂漠に居たんだ。助け合っているだけだよ」

 カミュルイアンは、少し恥ずかしそうに答え視線をアンジュリーンにむけた。

(まあ、可愛い)

 アリアリーシャは、カミュルイアンの仕草を見て笑みを漏らすとアンジュリーンを見る。

 そこには、動こうともせずレィオーンパードの様子を見て、少しガッカリした表情になった。

「ねえ、レオン! そっちの様子はどうなの! 私のコアもだけど、矢も回収するのよ!」

 アンジュリーンは自分の仕留めた魔物の事が気になって声を掛けるだけで、自身の倒した魔物を確認に行く事も無かった。

 カミュルイアンは申し訳なさそうな表情をした。

 本来であれば、自分の倒した魔物のコアは自身で回収する。

 カミュルイアンのように上り下りするような場所に陣取ったり、混戦で拾っている隙が無いなら後から拾うという事も有るが、今回のように一匹ずつの魔物を倒していて歩いていける範囲なら倒した本人が拾う。

 先程、剣で倒した魔物もだが、ちょっとした事を面倒に思う癖がある。

 そんなアンジュリーンの様子を見てアリアリーシャは残念そうな表情になった。

「あんたも大変ね」

 その言葉にカミュルイアンは申し訳なさそうな表情をする。

「ごめん」

 思わず声に出てしまう。

 アンジュリーンへの気遣いをしてくれたアリアリーシャなのだが、当人は気付いてない事がカミュルイアンには申し訳なく思えたようだ。

 

 レィオーンパードは、しゃがみ込むと地面に落ちている矢と魔物のコアを拾って掲げるとホバーボードを走らせてアンジュリーンの前に来た。

「アンジュ。はい、今の魔物のコアと射抜いた矢だよ」

 レィオーンパードは、拾いに行った時の矢と魔物を射抜いた矢の二本と魔物のコアをアンジュリーンに手渡すが不満そうな表情をしている。

「ありがとう。それで、最初に撃ったもう一本の矢は?」

 カミュルイアンが仕留めた時、アンジュリーンは二本の矢を外していた。

 今回回収した矢は二射目の矢だったので、一射目の矢の回収を忘れてしまっていた。

 レィオーンパードとしても、魔物の囮を行なっていた事もあり忘れてしまっていた。

「ああ、もう一本外した矢が有ったね。忘れてた」

 アンジュリーンは、ムッとした。

「そうね。私が最初に外した矢の事よ! それも回収して欲しかったんだけど!」

 レィオーンパードは、アンジュリーンの様子を気にする事なく、最初に放った矢の位置を確認すると岩の上のアリアリーシャを見た。

「ねえ、アンジュの外した矢はもう一本有るけど、そっちの矢も回収してきても良いかな」

 アリアリーシャは、苦笑いをしつつ回収されてない矢を見ると耳を立てた。

(もう、レオンったら、台無しじゃないの。アンジュに気持ち良く狩をしてもらおうと思ったのに、カミューに先を越された時の事を思い出させるように、外したって言うんじゃない! それにレオンの視力なら矢の周囲に魔物の潜む違和感だって分かっているんじゃないかしら)

「うーん、大丈夫みたいですぅ」

 レィオーンパードは安心するとホバーボードを矢の方向に向けると

「じゃあ、取ってくるよ」

 そう言うとホバーボードをゆっくりと走らせる。

「一応、周囲の確認はしろよ!」

 カミュルイアンが声を掛けると、分かったと言うように右手を上げて答える。

「全く、カミューは、慎重過ぎないか? 俺だって、大丈夫だと言われたって警戒は怠らないさ」

 レィオーンパードは、少し面白くなさそうに独り言を言いながらホバーボードをゆっくりと進ませる。

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