第11話 アンジュリーンの為の狩


 アリアリーシャの耳が立って、アンジュリーンの矢の刺さった方向を見ていた。

「あの矢の先の方に居るわね」

 言われてレィオーンパードも、その方向を睨むように見ると、アンジュリーンもカミュルイアンも見た。

「あの矢が、もう少し先に届いていたら、あっちの魔物と二匹を相手にする事になったわ」

「そうだね。今のレベルだと数匹を相手にするのは危険かもしれないね」

 カミュルイアンは、アリアリーシャの言葉に同調するように言ってしまったと言う表情をした。

(こんな事言ったら、アンジュの弓が当たらなかった事を言っているみたいじゃないか)

 アリアリーシャは、考えるような表情でアンジュリーンを見た。

「そうね。数匹を相手にするのは少し慣れてからの方が良いわね」

「姉さん。あの場所だったら、少し真っ直ぐ引っ張ってみたらどうだろう。横に走るより向かってくる魔物の方が弓は扱いやすいんじゃないかな」

 アリアリーシャはレィオーンパードの提案を聞いて納得するように頷いた。

「そうね。それなら、全力で向かって来ても良いのかもしれないわね。魔物との距離ももっと取れるかもしれないわね」

 アリアリーシャは、それだけ言うと考え込む。

(それに、カミューに先を越されてしまった事も有るから、確実に弓で仕留めさせて自信を付けさせて機嫌を戻させないと、この先アンジュが全く機能しなくなってしまうかもしれないわね。アンジュって、出来ないとなると、とことん出来なくなるから、早めに矢で倒させて自信を付けさせないといけないわね)

 アンジュリーンは、アリアリーシャにジーッと見られていたので視線を感じたのか、何気なくアリアリーシャの方を見た。

 そしてアリアリーシャが真剣な表情で自分を見ていると気がつくと焦った。

「な、なによ」

 聞かれると、アリアリーシャはニヤリと笑う。

「なんでもないですぅ。アンジュは、いつ見ても美人だなぁって思っただけですぅ」

 アンジュリーンは、顔を赤くした。

「あ、ありがとう」

 そう言うと視線を外してニヤつくので、アリアリーシャはムッとした表情をする。

「姉さん。あの矢の先なら、近くまで直線で引いても良いかな?」

 その質問にアリアリーシャは何かを思いついたようだ。

 そして、魔物の位置とアンジュリーンの位置を確認する。

「うん、そうね」

(うん、これならいけるかもしれない。アンジュに自信を付けさせられる)

「レオン。魔物が襲い掛かってきたら、真っ直ぐ、この岩の先の方を通過するように走らせてきて」

 そう言って、岩の5メートルほど先の方を指差した。

 レィオーンパードは、アリアリーシャの指示を聞くと、言われた通りに矢の刺さった場所から指示された場所を自分が走っている時の様子をシュミレーションするように見ると納得するように頷く。

「分かった。やってみる」

 そう言うとレィオーンパードは、ホバーボードに乗ってゆっくりアンジュリーンの矢の有る方に行くのをアリアリーシャは確認するとアンジュリーンを見た。

(アンジュったら、さっきのお世辞を、まだ、喜んでいるの!)

 少しムッとした表情をする。

「アンジュ! レオンが矢を取りに行ったわよ。直ぐに次の狩が始まるんだから準備して!」

 ハッとなったアンジュリーンは、レィオーンパードを確認すると慌てて弓の準備を始めた。

「もう、アンジュったら」

 小さな声でボヤいたのでアンジュリーンには聞こえてなかったが、隣のカミュルイアンには聞こえていたので、困ったような表情をしていた。

「カミュー、今度は、アンジュに花を持たせるようにするから、取りこぼした時の対応よ。ギリギリまでアンジュに任せてあげて」

「うん」

 二人だけに聞こえるように小声で話した。

 アンジュリーンはいつでも弓を弾けるように準備するとレィオーンパードの動きを追っている。

 レィオーンパードは、矢の位置と魔物の隠れている位置を確認しつつ、近付くとホバーボードを半回転させてバックで移動を始めた。

 矢を抜く前に魔物が飛び出してきても直ぐに反対方向に逃げられるように考えての行動である。

 ホバーボードは、重力魔法によって浮き上がっているが、動力源は風魔法から発生させた風によって動いている。

 加速と減速、左右への移動は、全て風魔法によって行われる。

 前進も後進も同じだけの力が掛けられるので、後ろ向きに走ったとしても同じスピードは出せる。

 レィオーンパードは前に進む際、足の位置は決まっている。

 初めてテストで乗った時から、後ろは右足、前は左足にすると癖になっているので、咄嗟に移動する方向に向けて移動していた。

 後進しつつ矢の横に来ると魔物の位置を警戒しつつ体を沈めて矢を引き抜こうとすると魔物が飛び出して走ってきた。

 レィオーンパードは、引き抜くと同時に一気に三人の元に加速する。

 魔物が飛び掛かる寸前の事だったので、危害が加わる事は無く追いかけられると、そのまま、アリアリーシャに言われた方向に真っ直ぐ進むと、魔物もその後を追って走る。

 すると、レィオーンパードの少し横を矢が通過すると、後ろの魔物の眉間にヒットした。

「イェーイ!」

 アンジュリーンの勝ち誇った声がする。

「レオン! 後ろの魔物は仕留めた! コアの回収をお願い!」

 岩の上からアリアリーシャの指示が聞こえると、レィオーンパードは速度を緩めて回転して魔物の元に戻る。

 魔物は、眉間に矢が刺さって体から黒い炎が上がっていた。

「コアが出たら回収して戻るよ」

 三人に声を掛けると魔物の眉間を仕留めたアンジュリーンは勝ち誇った態度をし、岩の上の二人はなんとも言えない表情をしていたのを、レィオーンパードは不思議そうな目で見ている。

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