第10話 弓による狩


 レィオーンパードは右前方に注意を払うと直ぐにニヤリとした。

 僅かな草の動きの違いを把握するが、方向は変えず、いつでも動けるように身構えつつ、見つけた場所を睨みつけている。

(今度は、上手く引いてやるさ)

 レィオーンパードの弧を描く動きと、その場所が一番近くなった瞬間、魔物が飛び出してきた。

 その動きに呼応するようにレィオーンパードは一気に加速すると、魔物も猛スピードで追いかけ出す。

「レオン! 距離が縮まったわ」

 魔物の瞬間的なダッシュの方が、ホバーボードの加速より早かったが、直ぐに等間隔になり、徐々に速度が落ちていく。

「今度は広がっている」

 アリアリーシャがレィオーンパードの動きと魔物の動きをナビゲーションし始めるが、いつまで経ってもレィオーンパードと魔物の追いかけっこの状態のままになっていた。

「ねえ、あんた達、いい加減攻撃したらどうなの」

「あ、うん。そうだね」

 カミュルイアンは答えると自分の弓を引き狙いをつけようとすると魔物に向かって矢が放たれた。

 アンジュリーンがカミュルイアンより先に矢を放ったが、その矢は魔物の後ろを通過するだけだった。

「ちっ! すばしっこいわね」

 ムッとした表情で次の矢を弓に添えて引くと直ぐに放った。

 しかし、結果は同じで魔物の走った後ろを通過していった。

(もう、アンジュったら、走っている魔物なんだから、魔物のスピードを計算に入れて少し先を狙うでしょ。あれは、どう見ても魔物の動きを計算せずに矢を放っているわ。最初の射撃で流れる距離を計算に入れて二射目を放つでしょうに! ほんと、顔だけエルフなんだから!)

 アリアリーシャはムッとした様子をしている。

「アリーシャ、矢を放つから注意して」

 カミュルイアンの言葉にアリアリーシャは少し岩の端に寄って頭を引くした。

 すると、アリアリーシャの頭の上を矢が通過して、レィオーンパードの方に矢が放たれると矢が魔物の首を射抜いた。

「カミュー、上手よ。首を射抜いたわ!」

 アリアリーシャが少し興奮気味に声に出すと、カミュルイアンは構えを解いて一息ついた。

(アンジュの矢が参考になった。移動する距離と矢の射抜く場所を考える事ができた。ありがとう、アンジュ。うっ!)

 カミュルイアンは一撃で魔物を仕留めるとホッとした様子でアンジュリーンを見て、しまったという表情をした。

 そこには、カミュルイアンを睨むアンジュリーンが居たからだ。

 アンジュリーンは、一射と二射を外していたが、カミュルイアンは一射で魔物を仕留めていた。

 自分に仕留められなかった魔物をカミュルイアンが簡単に仕留めてしまった事が気に食わなかったと言うように睨みつけていた。

 困った様子でアンジュリーンからレィオーンパードに視線を移すと、レィオーンパードが魔物の様子を伺っていた。

「この魔物は仕留められたよ。コアが出たら、そっちに持っていく」

「ああ、頼むよ」

 苦笑いしつつカミュルイアンは答える。

「カミュー」

 同じ岩の上に居たアリアリーシャが声を掛けたので視線を向けると笑みを浮かべていた。

「ちゃんと計算して射るからぁ、偉いです。よく当てました」

「あ、ありがとう」

 答えつつもアンジュリーンが気になるのか苦笑い気味に答えた。

 するとアリアリーシャは、地上のアンジュリーンを見た。

「アンジュ! 今の二射とも魔物の頭を狙って撃ったでしょ! 横に動いているんだから頭より前に狙いを付けないと後ろを通過してしまうでしょ」

 アンジュリーンは嫌そうな表情になった。

「魔物の移動速度を計算に入れて狙いを付けないと、また、今みたいな事になるわよ!」

「わ、分かっているわよ。今のは速度と距離の計算の為にワザと外したの!」

 アリアリーシャは、またかと言うような表情をした。

 アンジュリーンの性格から素直に聞くとは思っていなかったのだろうが、言い訳が気に食わないと思えたようだ。

「レオンに当てないようにと思ったのよ!」

 そう言って横を向くとレィオーンパードを見た。

 魔物のコアを拾って三人の方を見るとアンジュリーンと視線が合う。

「ん? このコアは、カミューに渡せばいいんだよね」

 気まずそうに言う。

「そうよ。それは、カミューが倒したんだからカミューのコアよ!」

 言われてホバーボードに乗って岩の所まで来る。

「カミュー」

 レィオーンパードは、そう言うと持っていたコアを放り上げると放物線を描いてカミュルイアンの胸元に届くので右手でキャッチすると、カミュルイアンの矢を差し出した。

「魔物に刺さった矢だよ」

「ああ、ありがとう」

 魔物の首に刺さった矢は魔物が消えると魔物のコアと一緒に地面に残っていたのを持ってきてくれたのだ。

「ねえ、レオン! 私の矢も取ってきてよ!」

 レィオーンパードは、後ろからの声にギクリとするとゆっくり後ろを振り返った。

「なんで、カミューの矢だけ持ってくるのよ。私は二本の矢を放ったのよ!」

 アンジュリーンの矢は魔物には当たらなかったので、カミュルイアンの矢よりも先の地面に刺さっていた。

 その場所は、今の魔物を仕留めた距離より遠くにあった。

「あの二本を拾ってくるんだね」

 歩いて行くには遠いので、ホバーボードを使えば簡単に移動できる。

 アンジュリーンの考えが理解できたと言うようにレィオーンパードは言われた通りに矢を拾いに行こうとする。

「待って」

 それをアリアリーシャが遮った。

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