第9話 狩の始まり


 アンジュリーンは、面白くなさそうにアリアリーシャとカミュルイアンが立っている岩に移動すると、レィオーンパードの進行方向に合わせるように岩の前に立った。

「何だかムカつく」

 一瞬、後ろを振り向こうとしたが、直ぐに弓の準備を始めた。

「何で、カミューが上で、私が下なのよ。逆でしょ」

「アンジュ、うるさい。気が散るから黙って」

 アンジュリーンはムッとした表情をしてレィオーンパードの行く先に視線を送っている。

 狩が始まっている段階で余計な事を言って口喧嘩をする気は流石に無かった。

(そうよ。今日は、新しいお洋服の為の狩なんだから、少しでも多くの魔物を狩らないといけないのよ。だから、今は、魔物に集中するの)

 アンジュリーンの顔付きが変わり構えも大きくなり、いつでも矢を引けるように身構える。

(あら、構が変わった。良い傾向だわ。ブツブツ言わなくなったから魔物の歩く音に集中できる)

 アリアリーシャは、レィオーンパードが動き出すのを確認すると、その方向に視線を向けると耳を立てた。

「レオン! その先少し左の方に一匹隠れているはずよ。確認できたら上手く引いてきて!」

 聞こえたと言うように左手を軽く上げると、言われた方に視線を向けた。

 レィオーンパードの視力が良い事から、隠れている場所さえ教えてもらえれば、その辺りの草の動きの変化も見逃さない。

 風に靡く草は、地面に何か有れば動きに変化が現れる。

 方向さえ分かってしまえば、草に隠れていようと風の流れで靡く動きによって場所の特定は簡単になる。

 レィオーンパードは、狙いを絞った。

 そして、ゆっくりと狙った場所に近付いて行くと、その場所から何かが飛び出してレィオーンパードに向かって走り出した。

「えっ!」

 レィオーンパードは、咄嗟に自分の腰に付けている剣を引き抜き走ってきて飛び上がった魔物に剣を上に振り抜いた。

 その刃は魔物の首を斬り裂き、そのまま後ろに放物線を描いて超えていった。

「あっ!」

 レィオーンパードは魔物を引くのではなく、飛び掛かってきたところを倒してしまった事に声を上げると、申し訳なさそうに岩の方の三人を見た。

「ちょっと、何しているの。これじゃあ弓の攻撃なんて必要ないじゃない!」

 うんざりした様子でアンジュリーンが言うが、岩の上のアリアリーシャは落ち着いた表情だった。

「レオン、大丈夫よ。まだ、この周りには魔物は居るわ」

「ねえ、アリーシャ。真っ直ぐに近付いていったら、今のようになるんじゃないの?」

「まあ、そうなるわね」

「魔物の隠れている場所の前を横切るようにしたら上手く追いかけてくれるんじゃないかな」

「そうね」

 アリアリーシャは、カミュルイアンの提案を聞いて納得する。

「レオン。ちょっと戻って」

 アリアリーシャに呼ばれるとレィオーンパードはホバーボードに乗ったまま岩の所まで戻ってきた。

「レオン。今みたいに魔物に真っ直ぐ向かったらぁ、また、同じになるからぁ、今度は見つけた魔物の場所を横切るように移動して」

 言われてウンウンと頷く。

「うん。今度は、そうしてみるよ」

「レオン。私達の弓の練習も兼ねているの。だから、ちゃんと魔物を引いてくれないと困るのよ」

 アンジュリーンの言葉にレィオーンパードは面倒臭そうな表情をした。

「やってみるよ」

「レオン。岩の周りを回ってくれると助かるんだ。横に移動している的を当てる方が訓練になると思うんだ」

 カミュルイアンは、レィオーンパードの様子からフォローするように言うので納得するような表情をした。

「ああ、それなら私が後ろの魔物との距離を伝えるから、上手くスピードを調整して」

「ああ、ありがとう。姉さん」

 そう言うと、ゆっくり岩を中心に回り出したが、その様子を面白くなさそうにアンジュリーンが見ていた。

「なんか、ちょっと、面白くない」

 アンジュリーンとしたら、自分が提案した狩なのに三人が色々決めて、話が進んでいく事が気に入らないようだ。

 そんな様子を岩の上からアリアリーシャは確認するが何も言う事もなく周囲の警戒に当たった。

 レィオーンパードは、岩を中心に時計と反対方向に回り始めると、今度は螺旋を描くよう、徐々に広がりながら回る。

 先程の魔物が飛び出した位置は、魔物が身を隠すために掘った穴が有ったのを横目で見ながらゆっくりとホバーボードを走らせる。

(こんな場所だから、身を隠すために体が隠れる程度の穴を掘るのか)

 レィオーンパードは、さっき倒した魔物が隠れていた場所を見た。


 人や亜人は魔物を狩って魔物のコアを得るが、魔物からしたら、自分達の縄張りに入ってきた人を襲って自分達の餌としている。

 魔物にとって、人や動物を襲って喰らうものでしかない。

 魔物は生き延びるために自分の特性を活かして狩を行う。

 この辺りの魔物は地面に穴を掘って身を隠して近付く人や動物を倒して餌にしていたのだ。


 先程の魔物が隠れていた穴を通過すると、また、周囲を警戒するように進む。

「レオン。その先少し向こう側。注意して!」

 レィオーンパードは、同じように弧を描くように走っているが、右前方に注意を放ちいつでも回避できるように身構えた。

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