第8話 配置


 アリアリーシャの言葉にカミュルイアンとレィオーンパードは安心した様子で剣を鞘に収めるが、アンジュリーンは自身の剣を眺めている。

 カミュルイアンが、アンジュリーンの斬った魔物の様子を伺い、アリアリーシャとレィオンパードはアリアリーシャの斬った魔物を伺っていた。

 斬られた魔物からはユラユラと黒い炎のようなものが体から出ていた。

 魔物の体は死ぬと黒い炎のようなものを体から放出しながら崩壊していき、最後には透明な水晶のような物を残す。

 それは、遠目で見ると六角柱の形をしているように見えるが、近くでよく見ると僅かに片側が小さくなっていて、上面と下面の六角形は高さの低い六角推になっている。


 カミュルイアンは、魔物から出る黒い炎を確認するとアンジュリーンに何か言おうとしてやめた。

(なんだか、新しいおもちゃを与えられた子供みたい。まあ、斬れるのは分かるけど、そんなに惚れ惚れと見ていなくても良いんじゃないか。それより、魔物のコアの回収でしょ)

 仕方なさそうに、徐々に魔物の崩壊する様子を確認する。

 魔物の体から出る黒い炎が消えたのを確認すると、残ったコアを拾った。

「アンジュ。コアはどうするの?」

 言われても、視線を剣から離さずにいる。

「ああ、持っていてよ。後でもらうから」

 その答えに何かを言い返そうとしたが、思いとどまると魔物のコアを拾ってポケットにしまいアリアリーシャ達を確認した。

 黒い炎が消え残った魔物のコアをアリアリーシャが拾うのをレィオーンパードが確認するように見守っていた。

(自分の倒した魔物なんだから、アリーシャのように自分で管理してくれれば良いのに、アンジュはこう言うところが出来ないんだよなぁ。何かに夢中になると優先順位を忘れてしまうんだから。困ったもんだ)

「おーい、そっちのコアも拾ったのなら岩を拠点にしてレオンに魔物を引いてもらおうか」

「そうね。それじゃぁ、岩に登って周囲を確認するわ」

「なあ、カミュー。弓を使うなら高い場所の方が良いんじゃないのか?」

 カミュルイアンに言われてアリアリーシャが移動し始めるとレィオーンパードが聞いたが、アリアリーシャは、カミュルイアンの様子を確認するように一旦視線を送るが止まる事なく岩の前に歩いていき、登れそうな場所を探すと器用に登り岩の上を確認しカミュルイアンを見た。

「カミュー。あと一人位ならスペースが有るわよ。あなたが登って弓を使ったらどお?」

 不貞腐れたように言いつつ顎を横に振った。

 その先には、いまだに剣を眺めているアンジュリーンがいる。

「ふん!」

 アリアリーシャは鼻を鳴らす。

「アンジュは、剣が気に入ったみたいだから、弓で取りこぼした魔物はアンジュに処理して貰えば良いんじゃない!」

 カミュルイアンとレィオーンパードは、アンジュリーンを見た後、お互いに顔を見合わせた。

「俺も、姉さんの意見に賛成だよ。弓の精度が上がるなら、その方が良いし、襲われた時のフォローだって、この岩の高さなら飛び降りて共同戦線だって出来るよ」

「そうだね」

 カミュルイアンもレィオーンパードの意見に賛成のようだが、気になる事があるようにアンジュリーンを見た。

 性格的に大人しいカミュルイアンは、アンジュリーンに遠慮している事が直ぐにわかる。

 その視線と表情からアリアリーシャは面白くなさそうにカミュルイアンとアンジュリーンを見比べる。

「アンジュ。カミューは、私と岩の上から弓で狙わせるわ。あなたは、地上から弓で攻撃するのよ。高さの違う位置からの攻撃ならお互いが邪魔になる事もないでしょ」

「ええ、そうね」

 アンジュリーンは上の空で答えるので、アリアリーシャはうんざりした様子でカミュルイアン達を見た。

「カミュー、こっちに来なさい」

 カミュルイアンは仕方なさそうな表情をして、アリアリーシャの登っている岩に向かった。

 高さは自分の胸の辺りなるのを確認すると、斜面の凹凸を確認して少し下がると一気に走り出して斜面の突起に足を掛けて登った。

「流石にぃ、身長があるとぉ、簡単ですねぇ」

 アリアリーシャは笑顔で言うが、カミュルイアンはハッとなると少し申し訳なさそうな表情をした。

「いやぁ、まぁ、ごめん」

 その言葉にアリアリーシャは少し膨れたような表情をした。

「あなたは自分の特性を活かしただけなの。気にする事はないわ」

「ごめん」

「もお、謝る必要なんてないのにぃ。そんな事されたら、私が惨めになるでしょ。あなたは、どうだ凄いだろう位のつもりで胸を張っていれば良いの!」

 カミュルイアンは、何かを言おうとして黙った。

「でも、気を遣ってくれて、ありがとう。本当に、カミューは優しいし、相手を思いやる事ができるから、とても好感が持てるわよ」

 それを聞いて少し恥ずかしそうにする。

「本当に、アンジュとは大違いね」

 そう言うと、アリアリーシャは、レィオーンパードを見てからアンジュリーンを見てムッとした。

「アンジュ! あんたは、地上が担当よ! それに、今日の目的は何だったのか忘れているんじゃないでしょうね!」

 剣の斬れ味に見惚れていたアンジュリーンに檄を飛ばした。

「そうだったわね」

 そう言って剣を鞘に収めると、気に入らない表情をした。

「何で、カミューも岩の上に居るのよ!」

 唖然としたカミュルイアンだが、アリアリーシャはやっぱりといった様子でため息を吐いた。

「アンジュ! あんたも納得した配置よ!」

 何の事だという表情をする。

「ここからカミューが弓で狙って、アンジュは地上からってなったでしょ。全く、あなたも納得したからこうやって配置についているの! あなたもさっさと弓の準備をしなさい」

 そう言うとレィオーンパードを見た。

「レオン! 仕事よ! 近くの魔物を釣るわ!」

「分かった」

 レィオーンパードは答えるとホバーボードを地面に降ろして上に乗ると、ゆっくり浮き上がり進み始めた。

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