第7話 陣地
アリアリーシャは、転移後冒険者になった後は常にソロで活動を行なっていた。
ウサギの亜人という種族は大人でも平均100センチ程の身長しかないところ、アリアリーシャは130センチもあった事から体力面では同種族の中では群を抜いている。
その身長は大きな武器となっていたが、一般的な見方としてウサギの亜人は索敵には長けているが戦闘向きでは無いと思われていた事から、パーティーに参加させてもらえる事は無かった事から、自身の身体能力を上げてソロでも魔物を倒せるまでに鍛えていた。
周囲からの反応に嫌気をさし、常にソロ活動を行い日常でも鍛え上げていた事から、ジューネスティーンのパーティーメンバーになった時も体力的にも技術的にもアンジュリーンを凌いでいた。
結果として学校の実技成績でも武闘大会の成績でも、アンジュリーンよりアリアリーシャが常に優っていた。
アンジュリーンは、少し先にある岩を指差した。
「ねえ、作戦も決まったから、あそこの岩を中心に陣を組んで魔物を狩りましょう」
そう三人に言うと先に目的の場所に歩き出したので、カミュルイアンが後に続いた。
「レオン。囮って案外難しいわよ。魔物が追い掛けるのを諦めないギリギリの距離を保つ必要が有るから、早すぎると魔物は付いてこないし、遅すぎたら追いつかれる事になるわ。後ろの様子を確認しつつ自分の進路も確認するのよ。間違って他の魔物の方に行ってしまったりとか、隠れている魔物を見つけられなくて襲い掛かられたりって事の無いようにね」
それだけ伝えるとアリアリーシャも二人を追いかけるように歩き出した。
(あれ? 今、語尾を伸ばして無かった。ひょっとすると、もう、魔物を見つけたのかもしれない)
持っているホバーボードを見た。
「そうだよね。全力を出したら逃げる事は出来るだろうけど、魔物の速度と同調させないといけないのか。難しそうな気がするけど」
黙り込んで考え始めたが、直ぐに開き直った表情をする。
「まっ、考えても仕方ないか。当たって砕けろだな」
そう言うと、ホバーボードを地面に置くと、それに乗って後を追った。
アンジュリーンが目的の岩に着く頃には三人も追いついていた。
「それじゃあ、始めましょうか」
しかし、アリアリーシャはアンジュリーンの言葉を気にする事なく岩の周囲を警戒するように一周し始めた。
「何っ」
アンジュリーンがアリアリーシャの動きに注意をしようとすると、カミュルイアンが腕を引っ張って自分の方に振り向かせるようにして止めた。
「何よ。カミュー」
面白くなさそうにカミュルイアンに言うと人差し指を立てて自身の口の前に当てた。
「あの岩に魔物が隠れてないか確認しているんでしょ。黙って見てた方が良いよ」
小声でアンジュリーンにだけ聞こえるように言うと、納得するように頷いたが内心は面白く無いという表情をしつつアリアリーシャの方に視線を向けると、レィオーンパードがホバーボードに乗ったまま、ゆっくりと二人の側に来た。
カミュルイアンとレィオーンパードは、アンジュリーンの両脇に立って、アリアリーシャの様子を伺う。
「姉さんは、耳が良いから、きっと、何か見つけたんだと思う」
レィオーンパードも小声で言う。
「分かったわ。こっちも直ぐに対応できるようにしておくわ」
そう言うと自身の剣の柄に手を掛けたので、その様子を見た二人はアリアリーシャとアンジュリーンを伺いつつ左右に分かれた。
(アンジュは、オイラ達が居る事を忘れているの? そのまま剣を抜いたら危ないじゃないか。自分の間合いが安全なのかも確認せずに警戒を始めるなんて)
アンジュリーンの間合いから外れると、カミュルイアンは反対側のレィオーンパードに視線を送った。
(あー、レオンも同じようなことを考えているみたいだよ。分かってないのはアンジュだけか)
残念そうな表情でアンジュリーンを見ると、真剣な眼差しで岩とアリアリーシャを伺いながら身構えて、魔物を見つけた瞬間剣を引き抜いて居合斬りをしようとしていた。
(アンジュったら、カッコつけようとしているのか。ジュネスの剣なら、他の剣とは違って軽いし斬れ味も違うから、それも有りなのか。まあ、怪我がない事を祈ろう)
カミュルイアンは、アンジュリーンからアリアリーシャと岩に視線を移しつつ、自身の剣を抜いて中段に構えた。
反対側のレィオーンパードは両方の腰に付けた短剣を逆手に引き抜いて腕に沿うように持つと胸の前に構えた。
二人も臨戦体制になり、いつ魔物が飛び出してきても構わない体制になった。
アリアリーシャが岩を回り始めて半周が過ぎレィオーンパードの方に近付いて行くと耳が跳ねるように動いた。
「アンジュ! 後ろ!」
それと同時にアンジュリーンは剣を引き抜きつつ、左足を軸にクルリと振り返り剣が鞘から引き抜かれ、大きく横に払うと襲い掛かろうと飛びかかってきた小型で四つ足の魔物の開かれた口に刃が入ると、そのまま刃を滑らせるように引きつつ手首を返した。
襲ってきたのは小型の四足歩行の魔物だったが、アンジュリーンの刃は口から胴体を真っ二つに斬り裂いた。
「すごいわ。ジュネスの剣は一番硬い顎の骨も斬り裂いてしまったわ」
「感心している場合じゃないわよ」
アンジュリーンにアリアリーシャが檄を飛ばすと半身になって剣を抜いて片手で中段に身構える。
その瞬間、地面近くにある岩の隙間から魔物が飛び出してきてアリアリーシャに向かって走り出し間合いに入る寸前に飛び掛かった。
しかし、アリアリーシャは驚く様子もなく、飛び掛かる事を知っているように体を低くしてタイミングを測って剣を上に払うと魔物の首に刃が入った。
魔物の首は胴体と分断され放物線を描きながら後ろに飛んでいった。
「ふん!」
アリアリーシャは分断された魔物を確認する事なく魔物の出てきた岩の隙間を睨むように見ていたが、直ぐに表情が和らぎ立っていた耳も後ろ向きになった。
「その隙間には、今の一匹だけのようね」
そう言って自身の剣を鞘に収めた。
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